彩り河

彩り河

松本清張による長編小説『彩り河』は、1981年から1983年にかけて『週刊文春』に連載され、1983年に文藝春秋から出版されました。本作は、銀座に集まる財界人の複雑な人間関係を背景にした連続殺人事件を描いており、サスペンスの要素に富んだ物語となっています。1984年には松竹により映画化もされ、幅広い人気を集めました。

あらすじ

物語の中心となるのは井川正治郎。56歳の彼は、かつては東洋商産の取締役を務めたものの、現在は首都高速料金所で通行券を渡す仕事をしています。ある日、彼は霞が関料金所で、親しかったホステスの山口和子に出会う。和子は、極めて成功している高柳秀夫と同乗していた。井川はすぐにかつての通信文を通行券に書き、和子との接触を試みました。

その後、井川は和子が自由が丘の豪邸に住み、銀座の会員制クラブ・ムアンのママを務めていることを耳にします。彼はクラブを訪れますが、和子からは冷たくあしらわれてしまいます。一方、原田と名乗る男が現れ、井川が和子とパトロンとの間で連絡係をしていると疑いを持ち、話しかけてきました。原田の本名は山越貞一で、彼は財界雑誌に情報を提供していました。

山越は、和子が関係を持つパトロンが高柳ではなく、より大きな実力者であるという疑いを持ちます。さらに、井川の過去を振り返りつつ、山越は東洋商産の資金繰りについて疑念を抱き、高柳が和子に大金を渡している可能性を調査し始めます。不運にも、5月下旬から和子がクラブに姿を見せなくなり、睡眠薬による自殺未遂の噂が広がります。

その後、井川は和子から会いたいという通信を受けます。和子は井川に、高柳をパトロンとして利用している訳ではなく、別の実力者に指示されていると告げます。井川は半信半疑のまま、8月20日に有楽町の映画館で和子の死体が発見される場面を迎えます。和子の死は、物語のクライマックスとして重要な意味を持ちます。

映画化

1984年4月14日には、松竹によって映画化されて公開されました。この映画では、主演に真田広之と名取裕子が起用され、原作とは異なる若いキャラクター設定がされました。映画の監督は、当初は野村芳太郎が予定されていましたが、松本清張との関係悪化により三村晴彦に変更されました。

この映画化に関しては、野村が原作の内容に興味を持たず、制作が難航した経緯があります。撮影開始時には脚本が完成しておらず、台本には「決定稿」という記載がないまま進んだとも言われています。また、実際のロケ地となった銀座は、映画の中でも生き生きと描かれ、登場人物たちの状況を引き立てています。

評価

公開された映画『彩り河』は、その脚本や演出について厳しい評価を受けました。脚本の練り込みが不足していることや、キャラクターの深みのなさが指摘され、同じ松竹内の脚本家からも脚本の整合性が問題視されるなど、評価は芳しくありませんでした。三村監督自身もこの映画を見直すことはなく、公開後の松本清張との関係も変化を迎えることとなりました。

松本清張は本作の映像化に携わっていた霧プロダクションを1984年8月31日に解散させ、本作は松竹で映画化された最後の清張作品となりました。『彩り河』は、サスペンス小説としてだけでなく、映像化を通じてもその影響を残しています。

もう一度検索