彩霧

小説『彩霧』の物語と背景

『彩霧』（さいむ）は、日本の著名な作家、松本清張による長編小説です。この作品は1963年から1964年にかけて『オール讀物』で連載された後、文藝春秋新社から書籍として刊行されました。物語は、金融業界の裏側を描きながら、登場人物たちの複雑な人間関係と状況を巧みに描写しています。

あらすじ

物語の主人公は、福栄銀行の預金係・安川信吾です。新しい人生を切り開こうとする安川は、ホステスの小野啓子を伴い、500万円を持って銀行から失踪します。九州各地を旅する中で、安川は脱税目的の架空名義預金が記された手帳を所有していることが明らかになります。この手帳の存在は、彼の友人である知念基に知られることとなり、知念は田村捨吉と共に銀行に接触します。

安川が持つ手帳を武器に、知念たちは銀行に対し警察への訴えを取り下げるよう圧力をかけます。安川は順調に思えたが、銀行側が知念との合意を破り、警察に通報したため、彼は逮捕されてしまいます。この知らせを受けた知念は、田村と共に福栄銀行の本店に乗り込みますが、総務部長はその圧力を拒否し、状況はさらに混沌としていきます。

知念は、高利貸の須原庄作に助けを求め、安川を救おうと奮闘します。しかし、田村は側の金に惹かれ、須原も巧妙に銀行と関係を築くことで安川の解放に繋がります。

緊迫の展開

安川が都落ちさせられたことを知った知念は、彼を追って静岡県へ向かいます。しかし、そこでは駿河湾沿岸を舞台とした連続殺人事件が発生しており、知念は思わぬ泥沼に巻き込まれることに。彼は須原が事件の背後にいると考え、真相を追求する決意を固めます。

この物語の特徴は、金融業界を舞台にした犯罪と人間関係の描写にあります。安川の逃亡劇と知念の探査は、周囲の人々の利害関係や欲望が絡み合い、登場人物たちの心理が緊張感を生み出しています。

登場人物

• - 知念基：東京の証券会社で外交員を務める。
• - 安川信吾：福栄銀行池袋支店の預金係。
• - 小野啓子：銀座のキャバレーのホステス。
• - 田村捨吉：土地会社の外交員。
• - 須原庄作：高利貸の大宝商事友好会の会長。
• - 板倉政一：大宝商事友好会の総務部次長。
• - 相田栄一郎：駿遠相互銀行の常務。
• - 蝶丸、文弥：相田の付き添いキャスト。
• - 牧野一夫：Y税務支署の法人税係。

エピソードと研究

作中では、金融業界にまつわる脱税や横領の証拠が大きなテーマとして扱われ、著者自身がメモに記した内容が作品に活かされています。また、推理小説研究家の山前譲は、本作を「男性バージョンの『黒革の手帖』」とし、特異な視点からの分析を行っています。

『彩霧』は、ただの犯罪小説ではなく、金融の世界における人間の心理や欲望、その裏切りの深さを深く掘り下げた作品として、今も多くの読者に愛されています。

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