彷徨える河

『彷徨える河』（原題:El abrazo de la serpiente、英題:Embrace of the Serpent）は、2015年に公開されたコロンビア映画で、シーロ・ゲーラが監督を務めました。この作品は、実在の学者リチャード・エヴァンズ・シュルテスとテオドール・コッホ＝グリュンベルグの手記に着想を得て制作されたドラマ映画であり、20世紀初頭のアマゾンを舞台に、ヨーロッパから来た学者と原住民の呪術師との奇妙な旅を描いています。

物語は1909年と1940年の二つの時代を交錯させながら展開します。1909年、若き呪術師カラマカテは、病に侵されたドイツ人民族学者テオドールとその従者マンドゥカに出会います。テオドールは幻の薬草ヤクルナを求めており、カラマカテはそれに興味を持ち、彼らと共に旅に出ます。彼らは先住民の集落を訪ね、物資調達のため布教地区にも立ち寄りますが、そこで宣教師による先住民の子供たちへの虐待を目撃し、子供たちを解放して逃亡します。その後、コイワノ族の村でヤクルナを発見しますが、その聖なる植物に対する不遜な態度に怒ったカラマカテはヤクルナを焼いてしまいます。

1940年、年老いて記憶を失ったカラマカテは、「チュジャチャキ（無の存在）」となっています。そこにアメリカ人植物学者エヴァンが訪れ、ヤクルナを求めて旅に同行することになります。エヴァンの目的は、かつてテオドールが著書に記したヤクルナに関する記述から、その幻覚作用を体験することでした。彼らは旅の途中で先住民に捕らわれ、カルト集団と遭遇し、そこから逃げ出します。最終的に、カラマカテがかつてヤクルナを焼いた集落にたどり着き、エヴァンは自生のヤクルナを摂取します。幻覚作用の中で、彼は大自然と一体化し、気づくとカラマカテの姿は消えていました。

この作品は、ニルビオ・トーレスが若き日のカラマカテを、アントニオ・ボリバル・サルバドールが年老いたカラマカテを演じています。また、ヤン・ベイヴートがテオドールを、ブリオン・デイヴィスがエヴァンを演じ、ヤウエンク・ミゲがマンドゥカ、ニコラス・カンチーノが救世主を演じています。

本作は、2015年のカンヌ国際映画祭の監督週間で上映され、芸術映画賞を受賞しました。その他、オデッサ国際映画祭での作品賞、リマ映画祭での作品賞と審査員特別賞など、数々の賞を受賞しており、第88回アカデミー賞外国語映画賞ではコロンビア映画として初のノミネートを果たしました。

公開は、2015年5月15日にカンヌ国際映画祭でプレミア上映された後、コロンビアで一般公開されました。日本では、京都ヒストリカ国際映画祭やあいちトリエンナーレで上映され、2016年10月29日に一般劇場公開されました。アメリカでは、公開週末の興行成績が2015年公開の外国語作品で1位となり、異例のヒットを記録しました。フランスでもロングラン上映されるなど、世界的に高い評価を得ています。

この映画は、単なる冒険譚ではなく、植民地主義の歴史、先住民の文化、そして人間の精神的な深淵にまで迫る重厚なテーマを内包しています。モノクロームで撮影された映像美も特筆すべき点で、アマゾンの雄大な自然と、そこに生きる人々の姿を力強く映し出しています。

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