後耳介動脈後頭枝

後耳介動脈後頭枝（こうじかいどうみゃくこうとうし）

概要

後耳介動脈後頭枝は、ヒトの頭頸部を走行する血管網の一部を構成する重要な動脈枝です。この血管は、外頸動脈から分岐する後耳介動脈の終枝の一つとして知られています。その主要な機能は、耳介の背面およびそれに連続する後頭部の頭皮、さらには後頭部に位置する特定の筋組織に対し、酸素と栄養を豊富に含む血液を供給することにあります。また、この動脈枝は、同じく頭部後方へ分布する後頭動脈の枝と相互に連結（吻合）しており、この領域における血行の安定化や側副血行路の形成に貢献しています。

後耳介動脈からの分岐と走行経路

後耳介動脈は、通常、外頸動脈の後面、側頭骨の茎状突起の近傍で分岐します。この動脈は、その後、耳下腺を貫通するか、またはその後方を走行し、耳介の付け根部分に至ります。後耳介動脈後頭枝は、この後耳介動脈が耳介の後方に達する手前、または到達した直後に分岐することが多いです。

分岐後、後頭枝はその名の通り、概ね頭部の後方へと向かって走行を開始します。この経路において、側頭骨の乳様突起や茎状突起といった骨性の隆起の周囲を迂回するように進み、次いで、頚部側方にある大きな筋である胸鎖乳突筋の上部やその付着部付近を横断するように走行します。この筋を越えた後、血管は耳介の後ろ側からやや上方へと方向を変え、最終的にはこの領域の皮下組織、すなわち頭皮の層へと広く枝分かれしながら分布します。

血流供給領域

後耳介動脈後頭枝が主に血流を供給する解剖学的領域は以下の通りです。

後頭筋: 頭皮筋膜（帽状腱膜）の後方に位置する薄い筋で、頭皮を後方に引き上げるなどの動きに関与します。後頭枝は、この筋組織に必要な血流を供給し、その機能維持を支えています。
耳介後面および後頭部の頭皮: 耳介の裏側や、そこから後頭部にかけての広範な頭皮領域に対しても、後頭枝は重要な栄養血管となります。頭皮は感覚神経終末が豊富で、外的な刺激に対する感覚を司るほか、毛髪の成長を支える組織でもあり、十分な血流はこれらの機能および組織の健康にとって極めて重要です。

これらの領域への適切な血流供給は、局所の組織の代謝活動を支え、正常な生理機能を維持するために不可欠です。

他の動脈との交通（吻合）

後耳介動脈後頭枝の解剖学的特徴の一つに、他の頭部動脈との吻合、すなわち血管同士の連結が見られる点があります。特に注目されるのは、同じく外頸動脈系の枝であり、後頭部を主に栄養する後頭動脈の枝との間の交通です。このような吻合が存在することで、もし何らかの原因で後耳介動脈や後頭動脈の本幹、あるいはその主要な枝に血流の阻害が発生した場合でも、吻合を介して別の経路から対象領域に血液が供給される可能性が生まれます。これは側副血行路と呼ばれ、組織の虚血性損傷を防ぐための生体にとって重要な予備的な血流供給システムとして機能します。

まとめ

後耳介動脈後頭枝は、後耳介動脈から分岐し、胸鎖乳突筋を越えて耳介後方から後頭部の頭皮および後頭筋に血流を供給する、頭頸部後方の重要な血管です。後頭動脈との吻合による側副血行路の形成にも寄与しており、この領域の組織の正常な機能維持に不可欠な役割を担っています。その正確な位置や走行、分布領域を理解することは、頭頸部外科や解剖学の研究において重要な意義を持ちます。

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