御書 (日蓮)

御書（ごしょ）とは、日本の鎌倉時代に活躍した仏教指導者、日蓮（1222年-1282年）が遺した書状や著作の総称です。日蓮がその生涯で著した多岐にわたる著作群をまとめて指す言葉として、今日まで広く用いられています。

この「御書」という呼称が使われ始めた時期については、比較的早い段階に遡ることができます。日蓮の主要な信徒であった富木常忍が、日蓮の没後間もない1299年（永仁7年）に記した『日常置文』の中に、すでにこの語が見られます。また、大石寺に伝わる歴史資料『御伝土代』にも同様の記述が確認されており、これらの史料から、日蓮の門下の間で遅くとも13世紀末頃には、その著作を尊重して「御書」と呼ぶ習慣が広く定着していたことがうかがえます。

「御書」以外にも、日蓮の著作は様々な名で称されることがあります。「御遺文」または単に「遺文」、「祖書」、「御妙判」なども、時代や宗派、文脈によって使われることがあります。

現在、日蓮の著作として知られる「御書」は、様々な編纂事業を通じて集成されています。中でも広く知られているものの一つに、『昭和定本日蓮聖人遺文』があります。この遺文集には、正編として434編、続編として55編が収録されているほか、図録や断簡、目録など、合わせて膨大な点数が収められています。

ただし、日蓮の著作全てが完全に特定され、その総数が確定しているわけではありません。古くから偽書（日蓮の著作ではないとされるもの）の存在が指摘されたり、現存する写本が断片的なもの（断簡）であったりするため、研究者や宗派によって、どの著作を「御書」に含めるか、あるいはその総数をどのように数えるかには違いが見られます。

数ある御書の中でも、特に重要視される特定の著作をまとめて呼ぶ慣習があります。代表的なものとして「三大部」や「五大部」といった分類があります。これらは日蓮教学の根幹に関わる重要な論文や書状を指すことが多いのですが、具体的にどの著作を三大部や五大部に含めるかについては、古来より様々な説が存在しており、必ずしも統一されていません。

現代においても、各宗派や研究機関によって御書の編纂や研究が続けられています。例えば、宗教法人創価学会は2021年に『日蓮大聖人御書全集 新版』を刊行しました。この全集には、「出家功徳御書」を除く461編が収録されており、日蓮の御書に加えて、日蓮の主要な門下であった日興の著作も一部含められています。

御書は、日蓮の生涯と思想、そして当時の社会や人々の姿を知る上で不可欠な歴史的・思想的資料であると同時に、現代においても日蓮系各宗派の信徒にとって、信仰のよりどころとして深く尊ばれています。

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