御膳酒

御膳酒（ごぜんしゅ）について

御膳酒とは、江戸時代の日本において、将軍や大名などの貴族層に提供されるために特別に醸造され、納品された日本酒を指します。一般に言えば、特に徳川将軍家の御膳酒を指すことが多いですが、その品質は非常に高く、片白、諸白といった様々な等級の日本酒の中でも、最高水準に位置づけられていました。特に「上諸白」とも呼ばれ、その名の通り高品質な酒であったことが強調されています。

徳川将軍家の御膳酒の歴史

徳川将軍家の御膳酒に関しては、1628年に奈良の酒屋である菊屋治左衛門が、初めて御本丸御用酒屋として任命され、将軍家に南都の名酒「南都諸白」を上納しました。1630年には正法院八左衛門も同様に任命され、奈良流の酒が将軍家の酒として重要な地位を占めることになりました。奈良は中世から近世にかけて名酒の産地として知られ、多くの酒造家がその地で優れた日本酒を生産していました。

1740年になると、伊丹の酒「剣菱」が将軍家の御膳酒に指定され、以後この酒は名声を博しました。しかし、京で作られた酒の中には「諸家御膳酒」や「御前酒」といった名称を使用して、将軍家の御膳酒と混同させるような不当表示が行われることがあり、これに対して京の町では厳禁の命令が下されました。こうした状況は、御膳酒の特別な地位を維持しようとする努力の一環であったといえます。

各藩の御膳酒

一方で、各藩においても御膳酒が存在し、藩主が飲む酒を指しました。藩主によっては、将軍家と同じ伊丹酒を御膳酒として取り入れることもあれば、自藩の特産酒を御膳酒に指定する場合もありました。特産酒が選ばれる場合、その多くは藩内で製造された最高級品でしたが、必ずしもその品質が他国に通用するものであるとは限りませんでした。その結果、藩主は時として自らの好みを犠牲にして、品質に対して我慢の必要があったことでしょう。

御用酒屋とは、その国許で御膳酒を造る酒屋を指し、藩の公認を受けた酒師や杜氏は「酒司」と呼ばれました。また、この酒司については、飛鳥時代や奈良時代の造酒司とは異なる概念であるため、注意が必要です。最初に仙台藩の御用酒屋を任されたのは、初代榧森又右衛門で、彼は柳生宗矩の紹介で伊達政宗に御酒を献上しました。

日本酒の文化は、江戸時代において特に発展し、御膳酒はその中でも特別な意味を持つ存在でした。特に徳川将軍家との結びつきや、各藩の酒造りの方針がその後の日本酒文化に多大な影響を与えていくことになりました。

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