復興局疑獄事件

復興局疑獄事件

復興局疑獄事件は、1924年（大正13年）夏、関東大震災からの首都復興という国家的な事業を推進していた内務省復興局内で明るみに出た、土地買収を巡る大規模な贈収賄事件です。この事件は、震災からの復旧・復興に向けた取り組みがようやく本格化し、軌道に乗り始めたまさにその時に発生し、社会に大きな衝撃を与えました。

事件の背景と概要

1923年（大正12年）9月1日に発生した関東大震災は、帝都東京に壊滅的な被害をもたらしました。政府はこれを受け、内務省内に特別組織として復興局を設置し、壮大な都市計画に基づいた区画整理やインフラ整備、住宅建設といった復興事業を推進しました。しかし、こうした巨大プロジェクトには常に利権が絡みやすく、不正の温床となりやすい側面も持ち合わせていました。

事件の中心となったのは、復興事業における土地の区画整理に必要な用地買収を巡る不正行為でした。具体的には、復興局の内部、特に資材や物品の調達を担当していた係長と購買業務に従事していた職員が、用地買収に関連する業者から不正な金銭を受け取った疑いが持たれました。収賄されたとされる金額は2万円（当時の価値で現在の数億円に相当）にのぼり、これは当時の公務員としては破格の巨額でした。

復興事業への影響と人的被害

震災復興という喫緊の課題に取り組む中で発生したこの汚職事件は、国民の復興に対する信頼を大きく損なわせる結果となりました。事件の捜査と裁判が進む間、復興事業の進行は一時的に停滞を余儀なくされ、被災地の早期再生を願う人々の期待を裏切る形となりました。

事件の発覚後、贈収賄に関与したとされる復興局の職員や、賄賂を贈った側の業者など、多数の関係者が次々と検挙されました。この中には、当時すでに復興局長を退任していたものの、事件への関与や監督責任を問われる形で十河信二（そごう しんじ）も含まれていました。

さらに、この事件は悲劇的な犠牲者も生みました。復興局で土木部長という要職にあり、十河の親友でもあった太田圓三（おおた えんぞう）は、事件の責任や精神的な重圧に耐えかねたためか、自ら命を絶つという痛ましい最期を遂げました。太田は復興事業、特に土木分野において重要な役割を果たしており、その死は関係者に大きな衝撃を与えました。

十河信二のその後

事件によって逮捕された十河信二は、自身への容疑を全面的に否認し、冤罪であると強く訴えました。長期にわたる裁判を経て、最終的に十河は無罪判決を勝ち取り、潔白を証明しました。この事件により一時的に官僚としてのキャリアは中断されましたが、後に彼は日本の鉄道史に名を刻むことになります。戦後、日本国有鉄道（国鉄）の総裁に就任した十河は、困難な財政状況の中で東海道新幹線計画を強力に推進し、「新幹線の父」と呼ばれる功績を残しました。復興局疑獄事件は、十河の波乱に満ちた人生における大きな試練の一つであったと言えるでしょう。

復興局疑獄事件は、大規模な公共事業における腐敗の危険性を示唆するとともに、震災からの復興という困難な道のりの中で起きた、関係者の苦悩や悲劇を伝える歴史的な事件として記憶されています。

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