復讐の荒野

『復讐の荒野』(1950年)は、アンソニー・マン監督によるアメリカ合衆国の西部劇映画です。強大な権力と復讐の念が渦巻く、重厚な人間ドラマが展開されます。日本では劇場未公開ですが、テレビ放映されたことで一部の観客に知られています。

舞台は1870年代のニューメキシコ州。主人公は、広大な土地『フューリーズ』を所有する巨万の富を誇る牧場主、T・C・ジェフォーズです。彼は、独自の通貨を用いるなど、絶対的な権力をふるい、土地に無断で住む者には容赦ない報復を加える冷酷な男でした。

ジェフォーズの娘ヴァンスは、父親譲りの強さと意志を持つ女性です。彼女は父親の横暴に臆することなく、時に対立するほどに強い自我を持っています。幼馴染で不法占拠者であるメキシコ人エレラを父親が追い出そうとすることに対しても、彼女は真っ向から反対します。

ジェフォーズは、ヴァンスを溺愛しており、彼女に牧場を継がせるつもりでした。そのため、娘の婿にも、自分の気に入った人物を選ぼうとしていました。しかし、ヴァンスが選んだのは、過去にジェフォーズが土地を奪うために殺した男の息子である銀行家、リップ・ダローでした。

リップはヴァンスとの結婚に同意するものの、ジェフォーズから「娘と別れれば高額の金をやる」と持ちかけられると、その金を手に入れるためにヴァンスを裏切ります。実は、リップの結婚はジェフォーズへの復讐が目的だったのです。

ヴァンスは深い悲しみに打ちひしがれますが、相続した牧場の経営に没頭することで、徐々に悲しみを乗り越えていきます。順調に経営が進む中、長らく家を留守にしていた父親が、バーネット夫人という女性を伴って戻ってきます。バーネット夫人は牧場の経営に干渉し始め、ヴァンスは彼女が父親の財産を狙っていると確信します。

怒りに燃えるヴァンスは、バーネット夫人の顔を刃物で傷つけます。激怒したジェフォーズはヴァンスを家から追い出し、ヴァンスはエレラの家に身を寄せます。しかし、エレラは逮捕され、絞首刑に処されてしまいます。

エレラの死は、ヴァンスの復讐心をさらに燃え上がらせました。彼女は父親への復讐を誓い、鉄道に乗って西部を放浪します。各地でジェフォーズの私設通貨を買い占め、通貨の価値を暴落させることで、父親を追い詰めていきます。そして、かつて自分を裏切ったリップと手を組み、ジェフォーズを罠にはめます。

ジェフォーズは破産し、ヴァンスはついに牧場を手に入れます。さらに、息子の復讐に燃えるエレラの母親によって、ジェフォーズは射殺されます。こうして、ヴァンスの復讐劇は、悲劇的な結末を迎えるのです。

本作には、バーバラ・スタンウィック、ウェンデル・コーリイ、そしてウォルター・ヒューストンの遺作となった出演など、豪華なキャストが顔を揃えています。アリゾナ州でのロケやパラマウント・スタジオでのセット撮影など、西部劇映画ならではのスケール感も魅力の一つです。復讐の連鎖、そして人間の業を描いた、忘れがたい西部劇作品として、現在も高い評価を得ています。

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