心房性ナトリウム利尿ペプチド

心房性ナトリウム利尿ペプチド（ANP）

心房性ナトリウム利尿ペプチド（Atrial Natriuretic Peptide、ANP）は、28個のアミノ酸から構成される生理活性のあるペプチドです。この物質は主に心房で合成され、必要に応じて血液中に放出されます。ANPはホルモンとして働き、特に心血管系において重要な役割を果たします。

ANPの作用

ANPが血液中に分泌されると、まず末梢の血管が拡張します。これにより血管抵抗が減少し、心臓への負荷が軽減されます。さらに、ANPは腎臓にも作用し、水分の排出を促進する利尿作用を持っています。この2つの作用により、体内の水分量が減少し、結果として心臓にかかる負担が減ります。

これらのメカニズムにより、ANPは高血圧を抑制する重要な物質としても知られています。心不全などの状態では、ANPの分泌が促進されることから、血圧管理においても不可欠な役割を果たしています。

ANPの発見

ANPの存在は1981年にカナダの研究者、ド・ボールド（Adolfo J. de Bold）らによって確認されました。当初、心房細胞にホルモンが含まれているのではと予測されていましたが、彼らの研究により、その血管拡張作用とナトリウムの排出促進作用が明らかになりました。さらに、1983年にはフライン（T. Geoffrey Flynn）らによってラットのANPのアミノ酸配列が解明され、西日本の宮崎医科大学の研究者たちによって人間のANPの配列も報告されました。

このとき発表された人間のANPは「hANP」とも呼ばれることがあります。

ANPのアミノ酸配列

ANPの具体的なアミノ酸配列は以下の通りです：

```
H-Ser-Leu-Arg-Arg-Ser-Ser-Cys-Phe-Gly-Gly-Arg-Met-Asp-Arg-Ile-Gly-Ala-Gln-Ser-Gly-Leu-Gly-Cys-Asn-Ser-Phe-Arg-Tyr-OH
```

医療への応用

ANPは心不全の診断と治療において、非常に重要な指標です。血液中のhANP濃度を測定することで、心不全の程度を評価することができます。また、ANPを基にした医薬品、カルペリチド（商品名ハンプ）は急性心不全の治療に用いられています。

さらに、最近の研究ではANPが肺がんの転移を抑制する効果も期待されており、今後の研究が注目されています。

関連項目

ANPに類似した物質として、脳性ナトリウム利尿ペプチド（BNP）があります。これも心血管系の機能に重要な役割を担っています。

このように、ANPは心臓や血管系の健康に深く関わっており、様々な病状の診断・治療において重要な役割を果たしています。

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