忍法八犬伝
『忍法八犬伝』は、山田風太郎が手がけた時代小説であり、忍法帖シリーズの一作として知られています。この物語は、1964年に『週刊アサヒ芸能』で連載され、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を大胆にアレンジした作品です。
物語は、将軍家が主催する大名たちの家宝展示会から始まります。安房の里見家は、伝家の宝である「伏姫の珠」を出品します。この珠は、将軍家の嫡男である竹千代の目に留まり、里見忠義は珠を献上することを約束させられます。しかし、この出来事は、里見家を取り潰そうとする謀臣・本多佐渡守の陰謀の始まりでした。佐渡守は、伊賀組頭領・服部半蔵に命じ、半蔵配下の伊賀くノ一たちに珠を偽物とすり替えさせます。
窮地に立たされた里見家では、重臣である「八犬士」が責任を取り切腹します。彼らは、甲賀で忍法修行をしている後継者たちに、本物の珠の奪還を託します。しかし、甲賀にいたはずの後継者たちは、厳しい修行に耐えかねて江戸に逃げ出していました。彼らは、太平の世に安住し、ろくでなしや無法者として暮らしていました。父たちの遺言にも関わらず、彼らは戦う意思を持っていませんでした。
状況が変わるのは、里見忠義の妻である村雨の方が、事態を重く見て密かに安房を抜け出した時です。まず、乞食をしていた犬田小文吾が彼女に協力します。彼は、大勢の人の目の前で服部屋敷に乗り込み、甲賀と伊賀の珠をめぐる戦いの開始を宣言します。小文吾は伊賀くノ一によって倒されますが、その正面からの挑戦は、伊賀者のプライドを刺激し、珠を始末することを不可能にします。
他の七人の八犬士たちも、それぞれ村雨に秘かに想いを寄せていました。小文吾の死をきっかけに、彼らは珠を奪還するための戦いに身を投じます。忍法を駆使して伊賀くノ一を次々と倒していきますが、八犬士たちもまた倒れていきます。村雨は捕らえられ、服部屋敷に連れていかれ、里見家の姫と名乗ることを余儀なくされます。犬村角太郎は、信乃に忍法肉彫りを施し、村雨そっくりの顔に仕立て上げます。この忍法は、骨を削り肉を繋ぎ合わせるため、元には戻せない術でした。
八犬士の中でも最強と謳われる犬江親兵衛が服部屋敷に斬り込み、村雨の姿をした信乃が囮になっている間に、犬川壮助が本物の村雨の救出に成功します。その後、角太郎自身も忍法肉彫りで小幡勘兵衛に成りすまし、命と引き換えに珠を奪還します。そして、壮助の死をもって、最後の珠が取り返されます。江戸城へ向かう道中、村雨の懐に、生き残った信乃が珠を放り込み、村雨は無事に「伏姫の珠」を献上しました。
『南総里見八犬伝』に登場する、里見家を守護する八犬士の証である水晶の珠です。本来は「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の文字が浮かび上がっていますが、物語中で偽物とすり替えられた珠には、「狂」「戯」「乱」「盗」「惑」「淫」「弄」「悦」の文字が刻まれています。
先代の八犬士が切腹した後に、それぞれの名前と珠を継承する重臣の末裔たち。
犬飼現八（信）「淫」 - 傾城屋。幼名「源五」。
犬川壮助（義）「戯」 - 女かぶき一座の振付師。
犬村角太郎（礼）「乱」 - 軍学者。幼名「円太郎」。真面目な堅物。
犬田小文吾（悌）「悦」 - 乞食。幼名「大文吾」。怠け者で怪力の持ち主。
犬坂毛野（智）「盗」 - 盗賊団の美貌の首領。
犬江親兵衛（仁）「狂」 - 六方者の頭。幼名「子兵衛」。唯一、忍法修行を全うした最強の犬士。
犬山道節（忠）「惑」 - 香具師。信乃と共に大道芸をする。
犬塚信乃（孝）「弄」 - 女装の軽業師。幼名「小信乃」。
服部半蔵の配下で、里見忠義を誘惑し、珠を奪うために派遣されたくノ一たち。名前は『八犬伝』の登場人物から取られています。
船虫（ふなむし） - リーダー格。最初に小文吾によって目玉を奪われ、最後に信乃に殺される。
玉梓（たまずさ） - 7番目に死亡。自決。
朝顔（あさがお） - 最初に死亡。
夕顔（ゆうがお） - 2番目に死亡。
左母（さも） - 5番目に死亡。
牡丹（ぼたん） - 3番目に死亡。
椿（つばき） - 4番目に死亡。
吹雪（ふぶき） - 6番目に死亡。
里見安房守忠義（さとみ あわのかみ ただよし） - 安房館山藩の大名。
村雨（むらさめ） - 里見忠義の妻。
正木大膳（まさき だいぜん） - 安房里見家の家老。
昼顔（ひるがお） - 傾城屋の遊女。
服部半蔵正広（はっとり はんぞう まさひろ） - 4代目服部半蔵。
物語には様々な奇想天外な忍法が登場します。
忍法外縛陣（げばくじん）
忍法内縛陣（ないばくじん）
忍法天女貝
忍法影武者
忍法袈裟御前
忍法流れ星
忍法地屏風
忍法犬走り
忍法摩蝋燭
忍法肉彫り
忍法踊り子
忍法振付指南
忍法雛鑑別
忍法くのいちだまし
忍法帖シリーズでは珍しく、複数の忍者の対戦で、女装した犬塚信乃が最後まで生き残るという特徴があります。
この作品は、様々な形で出版されています。
忍法八犬伝（徳間書店・平和新書 1964年）
風太郎忍法帖 第5 忍法八犬伝 (講談社、1967年)
忍法八犬伝（徳間文庫 1982年）
忍法八犬伝 山田風太郎傑作忍法帖（講談社・KODANSHA NOVELS 1996年）
山田風太郎忍法帖4 忍法八犬伝（講談社文庫 1999年）
* 忍法八犬伝 山田風太郎ベストコレクション(角川文庫 2010年）
山口譲司によって漫画化され、『エイトドッグス〜忍法八犬伝〜』として『コミック乱ツインズ』（リイド社）で連載されました。単行本は全2巻です。
あらすじ
物語は、将軍家が主催する大名たちの家宝展示会から始まります。安房の里見家は、伝家の宝である「伏姫の珠」を出品します。この珠は、将軍家の嫡男である竹千代の目に留まり、里見忠義は珠を献上することを約束させられます。しかし、この出来事は、里見家を取り潰そうとする謀臣・本多佐渡守の陰謀の始まりでした。佐渡守は、伊賀組頭領・服部半蔵に命じ、半蔵配下の伊賀くノ一たちに珠を偽物とすり替えさせます。
窮地に立たされた里見家では、重臣である「八犬士」が責任を取り切腹します。彼らは、甲賀で忍法修行をしている後継者たちに、本物の珠の奪還を託します。しかし、甲賀にいたはずの後継者たちは、厳しい修行に耐えかねて江戸に逃げ出していました。彼らは、太平の世に安住し、ろくでなしや無法者として暮らしていました。父たちの遺言にも関わらず、彼らは戦う意思を持っていませんでした。
状況が変わるのは、里見忠義の妻である村雨の方が、事態を重く見て密かに安房を抜け出した時です。まず、乞食をしていた犬田小文吾が彼女に協力します。彼は、大勢の人の目の前で服部屋敷に乗り込み、甲賀と伊賀の珠をめぐる戦いの開始を宣言します。小文吾は伊賀くノ一によって倒されますが、その正面からの挑戦は、伊賀者のプライドを刺激し、珠を始末することを不可能にします。
他の七人の八犬士たちも、それぞれ村雨に秘かに想いを寄せていました。小文吾の死をきっかけに、彼らは珠を奪還するための戦いに身を投じます。忍法を駆使して伊賀くノ一を次々と倒していきますが、八犬士たちもまた倒れていきます。村雨は捕らえられ、服部屋敷に連れていかれ、里見家の姫と名乗ることを余儀なくされます。犬村角太郎は、信乃に忍法肉彫りを施し、村雨そっくりの顔に仕立て上げます。この忍法は、骨を削り肉を繋ぎ合わせるため、元には戻せない術でした。
八犬士の中でも最強と謳われる犬江親兵衛が服部屋敷に斬り込み、村雨の姿をした信乃が囮になっている間に、犬川壮助が本物の村雨の救出に成功します。その後、角太郎自身も忍法肉彫りで小幡勘兵衛に成りすまし、命と引き換えに珠を奪還します。そして、壮助の死をもって、最後の珠が取り返されます。江戸城へ向かう道中、村雨の懐に、生き残った信乃が珠を放り込み、村雨は無事に「伏姫の珠」を献上しました。
伏姫の珠
『南総里見八犬伝』に登場する、里見家を守護する八犬士の証である水晶の珠です。本来は「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の文字が浮かび上がっていますが、物語中で偽物とすり替えられた珠には、「狂」「戯」「乱」「盗」「惑」「淫」「弄」「悦」の文字が刻まれています。
登場人物
八犬士の子孫
先代の八犬士が切腹した後に、それぞれの名前と珠を継承する重臣の末裔たち。
犬飼現八（信）「淫」 - 傾城屋。幼名「源五」。
犬川壮助（義）「戯」 - 女かぶき一座の振付師。
犬村角太郎（礼）「乱」 - 軍学者。幼名「円太郎」。真面目な堅物。
犬田小文吾（悌）「悦」 - 乞食。幼名「大文吾」。怠け者で怪力の持ち主。
犬坂毛野（智）「盗」 - 盗賊団の美貌の首領。
犬江親兵衛（仁）「狂」 - 六方者の頭。幼名「子兵衛」。唯一、忍法修行を全うした最強の犬士。
犬山道節（忠）「惑」 - 香具師。信乃と共に大道芸をする。
犬塚信乃（孝）「弄」 - 女装の軽業師。幼名「小信乃」。
伊賀くノ一
服部半蔵の配下で、里見忠義を誘惑し、珠を奪うために派遣されたくノ一たち。名前は『八犬伝』の登場人物から取られています。
船虫（ふなむし） - リーダー格。最初に小文吾によって目玉を奪われ、最後に信乃に殺される。
玉梓（たまずさ） - 7番目に死亡。自決。
朝顔（あさがお） - 最初に死亡。
夕顔（ゆうがお） - 2番目に死亡。
左母（さも） - 5番目に死亡。
牡丹（ぼたん） - 3番目に死亡。
椿（つばき） - 4番目に死亡。
吹雪（ふぶき） - 6番目に死亡。
里見家ほか
里見安房守忠義（さとみ あわのかみ ただよし） - 安房館山藩の大名。
村雨（むらさめ） - 里見忠義の妻。
正木大膳（まさき だいぜん） - 安房里見家の家老。
昼顔（ひるがお） - 傾城屋の遊女。
服部半蔵正広（はっとり はんぞう まさひろ） - 4代目服部半蔵。
登場する忍法
物語には様々な奇想天外な忍法が登場します。
忍法外縛陣（げばくじん）
忍法内縛陣（ないばくじん）
忍法天女貝
忍法影武者
忍法袈裟御前
忍法流れ星
忍法地屏風
忍法犬走り
忍法摩蝋燭
忍法肉彫り
忍法踊り子
忍法振付指南
忍法雛鑑別
忍法くのいちだまし
備考
忍法帖シリーズでは珍しく、複数の忍者の対戦で、女装した犬塚信乃が最後まで生き残るという特徴があります。
書誌情報
この作品は、様々な形で出版されています。
忍法八犬伝（徳間書店・平和新書 1964年）
風太郎忍法帖 第5 忍法八犬伝 (講談社、1967年)
忍法八犬伝（徳間文庫 1982年）
忍法八犬伝 山田風太郎傑作忍法帖（講談社・KODANSHA NOVELS 1996年）
山田風太郎忍法帖4 忍法八犬伝（講談社文庫 1999年）
* 忍法八犬伝 山田風太郎ベストコレクション(角川文庫 2010年）
漫画
山口譲司によって漫画化され、『エイトドッグス〜忍法八犬伝〜』として『コミック乱ツインズ』（リイド社）で連載されました。単行本は全2巻です。
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