志田鉀太郎

志田 鉀太郎（しだ こうたろう）は、慶応4年8月20日（1868年10月5日）に生まれ、昭和26年（1951年）3月13日に没した日本の著名な法学者であり、教育者です。特に商法や保険学の分野で多大な功績を残しました。

志田は、現在の東京都新宿区にあたる、かつての東京府牛込区で誕生しました。生家は一橋徳川家に仕える剣術指南番の家庭でした。幼少期から勉学に励み、東京府尋常中学校を経て、私立東京英語学校で学びました。その後、明治27年（1894年）に東京帝国大学法科大学を卒業し、さらに同大学院へと進学しました。

大学院修了後、明治31年（1898年）には学習院大学科の教授に就任し、教育者としての第一歩を踏み出します。明治30年（1897年）から大正8年（1919年）にかけては、設立されたばかりの東京高等商業学校（後の東京商科大学、現在の一橋大学）において、専攻部の初代商法教授として教鞭を執りました。この期間、彼はドイツへの留学を経験しており、そこで得た知見を教育に活かしました。

ドイツ留学中には、石川巌、石川文吾、神田乃武、瀧本美夫、津村秀松、福田徳三、関一といった他の研究者や教育者たちと共に、当時専門学校であった東京高等商業学校を大学へと昇格させるための運動を積極的に推進しました。その結果、大正9年（1920年）に東京商科大学が開設されると、志田は同学の保険学担当講師としても講義を行いました。

教育活動の傍ら、実業界にも関わりました。大正8年（1919年）からは共済生命（現在の明治安田生命保険）の専務取締役を務め、保険の実務にも深く携わっています。

志田は、東京帝国大学のほか、東京専門学校（現在の早稲田大学）、明治法律学校（現在の明治大学）、和仏法律学校（現在の中央大学）といった、当時の主要な教育機関でも講師を務めていました。

国際的な活動としては、明治35年（1902年）、ドイツ・フランスへの留学を終えた後に、清国（現在の中国）政府からの招きを受け、その商法編纂作業に携わったことが特筆されます。当時の清国は、日清戦争後の危機感を背景に変法自強運動などの近代化改革を進めている最中であり、その重要な一環としての法整備に貢献したのです。

帰国後も、日本の教育界、特に私学の発展に力を注ぎました。明治大学においては、東京商科大学で同僚であった下野直太郎、關一、星野太郎、佐野善作、村瀬春雄、坂本陶一、石川文吾、瀧本美夫、横井時冬らと共に、商学部の設置に多大な尽力を払い、その実現に貢献しました。そして、自らも同学部の教授として教壇に立ちました。また、愛知県の一宮実業学校（現在の愛知県立一宮商業高等学校）では、初代校長の任にあたり、地方の実業教育の振興にも関わりました。

明治大学では、商学部長を務めた後、昭和15年（1940年）6月には第5代総長に就任し、学園の最高責任者としてその運営を担いました。

学術団体への貢献としては、日本保険学会の創立に深く関与しました。昭和25年（1950年）に加藤由作一橋大学教授を議長として行われた日本保険学会の再建総会では、印南博吉明治大学教授による経過報告の後、矢野恒太、粟津清亮といった保険学界の重鎮たちと共に名誉会員に推挙され、その長年の功績が称えられました。門下からは、印南博吉や田中外次といった多くの法曹界や学界で活躍する人材を育成しました。弟である青山衆司も法学者であり、大正8年に志田の後任として東京商科大学の商法教授に就任しています。

志田鉀太郎は、教育、研究、実業界、さらには国際的な法整備にも貢献し、日本の近代法学、特に商法および保険学の礎を築いた一人として、その名を残しています。受けた栄典としては、明治30年（1897年）11月30日には従七位に叙せられ、明治43年（1910年）12月26日には勲四等瑞宝章を受章しています。

その生涯を通じて、多くの大学で教え、学部の設置に尽力し、保険会社の経営にも携わり、さらに国の垣根を越えた法制度の整備にも関わるなど、幅広い分野で活躍しました。明治大学総長としてのリーダーシップや、日本保険学会創立における貢献など、教育・学術・実務の各方面における多角的な活動は、日本の近代社会の発展に大きく寄与したと言えるでしょう。

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