忘られぬ死

『忘られぬ死』の概要

『忘られぬ死』（原題：Sparkling Cyanide）は、1945年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説です。本作は、エルキュール・ポアロシリーズの短編『黄色いアイリス』に基づいていますが、ポアロは登場せず、代わりに新たなキャラクターであるレイス大佐が活躍します。

あらすじ

物語は、1年前に亡くなった美しいローズマリーの死を巡る謎を描いています。彼女はロンドンの高級レストラン「ルクセンブルク」で開かれた誕生パーティーで青酸入りのシャンペンを飲み、命を落としました。公式には自殺とされましたが、彼女の姉妹アイリスや夫ジョージは、ローズマリーの死には何らかの陰謀があるのではないかと疑います。

ローズマリーは、その死の前にインフルエンザにかかり、精神的に不安定な状態にありました。また、彼女のバッグから青酸が包まれた紙が見つかり、周囲は彼女の死を自殺と判断しました。しかし、遺産相続を巡る事情や、当時の人間関係から疑念が生じてきます。姉妹のアイリスが彼女の恋人に宛てた手紙や、夫のジョージが匿名で受け取った殺人を示唆する手紙が、ローズマリーの死の背後に他の誰かがいることを示唆しています。

さらに、ジョージは死後1年、同じメンバーを集めてのパーティを計画します。再び集った6人は、すでに一度なくなった友人を偲びながら乾杯しますが、そこで新たに死者が出てしまいます。ジョージが再び青酸で中毒死してしまったのです。捜査の結果、前回の乾杯の後、誰もがジョージのグラスに毒を入れることは不可能だったことが判明し、レイス大佐は事件の解明に乗り出します。

登場人物

• - ローズマリー・バートン: 死んだ美しい富豪の女性。
• - ジョージ・バートン: ローズマリーの夫であり、彼女の死に疑念を抱く。
• - アイリス・マール: ローズマリーの妹。遺産相続人。
• - ルシーラ・ドレイク: 姉妹の伯母。
• - ヴィクター・ドレイク: 伯爵の息子で、犯罪者。
• - ルース・レシング: ジョージの秘書。
• - スティーヴン・ファラデー: ローズマリーの恋人であり、政治家。
• - アレクサンドラ: スティーヴンの妻。
• - アンソニー・ブラウン: ローズマリーの友人。
• - ケンプ: 捜査を担当する警視。

作品が持つ魅力

アガサ・クリスティは、この作品を通して人間関係の複雑さや、表面上の親しみやすさとは裏腹な深い闇を浮き彫りにしています。多様な人物たちの心の葛藤や、嫉妬、疑念が交錯する様子は、読者を引き込みます。また、『忘られぬ死』は、何度も映像化されており、各時代のスタイルで新たな解釈をされています。

本作は、クリスティの推理小説の中でも特に評価されており、結城信孝は「アガサ・クリスティー〈黄金の12〉」の中で、ベスト1として位置づけています。

『忘られぬ死』は、神秘的な事件の背後に潜む人間の深い心理を探求し、読者に考えさせる作品となっています。

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