忘れられた日本人

『忘れられた日本人』の概要

『忘れられた日本人』は、1960年に宮本常一によって発表された著作で、彼の代表作の一つとされています。この書は、1958年から1960年にかけて月刊誌『民話』に連載された内容が大部分を占めており、民俗学的観点から日本人の生活や文化に光を当てています。この著作の中で宮本は、民俗学が単なる語彙の収集に留まるのではなく、一人ひとりの個別の体験やその背景を重視すべきだと主張しました。

書籍の歴史と背景

『忘れられた日本人』は1960年7月に未來社から初版が発行されました。その後も書籍は様々な形で再出版され、特に1971年には宮本常一著作集の第10巻としても刊行されています。1984年に岩波文庫からも出版され、さらには1995年にはワイド版岩波文庫としても新たに登場しました。

特に、著作の根幹を成す部分は1950年代に執筆されたものであり、取材の舞台は主に宮本の故郷である山口県周防大島やその周辺に広がります。取材の最古の例は、著者の祖父に当たる人物について述べています。祖父に関する記述は本書の最初の引き合いとなっており、平凡ながらも非常に深い人間性が感じられます。

取材の経緯と内容 現地調査の多様性

宮本常一は生涯を通じて多様な地域を訪れ、民俗の実態調査を行ってきました。初めての取材は1930年代に遡り、小学校教師を辞めた後は渋沢敬三のもとでアチック・ミューゼアムに入り、民間の調査を続けました。彼の視点は、単に伝承や文化を記録するのではなく、そこに生きる人々の声を真摯に聞くことに重点を置いています。

取材にあたる具体的なエピソードも多く語られており、例えば、対馬での村の寄り合いの様子や、民謡を通じた文化交流の重要性が挙げられます。また、著書中には年齢に基づく社会構造の違い、特に西日本と東日本の年齢階梯制の違いについても触れられており、地方ごとの文化的根差しが描かれます。

影響と評価

宮本常一のこの作品は、ただの民俗学書にとどまらず、当時の日本社会の変遷や、個人の記憶が後世にどう継承されるかというテーマを提起しています。彼のこのような視点は、当時の日本の伝統文化の再評価にもつながる重要な要素となりました。

本著は、単なる民話のコレクションとしてではなく、その背景にある人々の息遣いを記録することの大切さを訴えています。古老たちとの対話の中から生まれた数々のストーリーは、失われつつある日本の文化遺産に対する敬意と愛情に満ちています。これらの取材を通じて、宮本は文化の本質を探求し続けました。

まとめ

『忘れられた日本人』は、日本の民俗学を深く掘り下げることで、親近感や共感を喚起する作品です。この作品は、宮本常一の熱意と、民俗学に対する新たな視点を提供し続けており、後の研究者たちへの大きな影響を及ぼしています。彼の探究心と人間への深い理解が結実したこの書物は、日本人にとっての大切な文化的財産となっています。

もう一度検索