忘却 (曲)

宇多田ヒカル「忘却」楽曲解説

「忘却」は、宇多田ヒカルが2016年にリリースしたアルバム『Fantome』に収録された楽曲で、ラッパーのKOHHとのコラボレーション作品です。この曲は、宇多田の音楽活動再開後の作品であり、彼女にとって新たな挑戦となりました。

制作背景

宇多田ヒカルは、2010年から「人間活動」と称して音楽活動を休止していましたが、2016年に活動を再開しました。一方、KOHHは2016年に「BEST HIP HOP ARTIST」を受賞するなど、当時、ヒップホップシーンで注目を集めていました。もともと「忘却」はインストゥルメンタルとして収録される予定でしたが、スタッフの提案によりラップパートが追加されることになりました。宇多田は、以前からKOHHのファンであり、彼にオファーをしました。KOHHもまた、宇多田のファンであり、過去に彼女の楽曲をサンプリングしたこともありました。このコラボレーションは、お互いの音楽性を認め合い、リスペクトし合う関係から生まれたと言えるでしょう。

制作過程

KOHHが参加することが決まると、まず二人はロンドンの宇多田の自宅で顔合わせをしました。初日はお互いの好きな音楽を聴きあい、親睦を深めたそうです。制作段階では、宇多田がKOHHに自身の歌うパートを聴かせ、「忘却」というタイトルの意図や死生観について語りました。その後、お互いの生い立ちや家族について語り合う中で、楽曲のテーマが深まっていきました。宇多田はKOHHに曲の冒頭1分30秒のラップパートを任せ、KOHHは自身の生い立ちや内面を反映させたリリックを書き上げました。曲の最後に登場するオルガンは、KOHHの提案によるものです。KOHHのレコーディングは宇多田自身が担当しました。この曲が、宇多田の楽曲で初めて他者の言葉が歌詞に組み込まれた作品となりました。

音楽性

「忘却」は、ノイズから始まり、心臓の鼓動のような音が重なる中、アンビエントなストリングスが楽曲全体を覆います。この独特なサウンドは、宇多田とKOHHの音楽性を融合させたものです。KOHHのラップは独特の譜割で、楽曲にリズムと深みを与えています。この曲は、ヒップホップ、アンビエント、エレクトロニカなど様々なジャンルの要素が組み合わさっており、音楽的な実験性も感じられます。

歌詞

歌詞は、宇多田の死生観を反映したもので、「生き方を考えることは死に方を考えることと同義である」というメッセージが込められています。また、記憶にとらわれずに、死ぬときは手ぶらでいたいという考え方も表現されています。KOHHのラップパートは、彼の過去の経験や内面を深く掘り下げたもので、宇多田の歌詞と対比させることで、楽曲のテーマをより深く表現しています。

評価

「忘却」は、音楽評論家からも高い評価を受けています。宗像明将は、「生きていく中で抱く恐怖や、死への想像を歌う楽曲にふさわしい」と評し、泉智は、KOHHのラップが「スピリチュアル・ミュージック」であると指摘しました。蔦谷好位置は、宇多田がKOHHをフックアップしたことを評価し、KOHHの人間力を称賛しました。この楽曲は、宇多田ヒカルの新たな音楽性を開拓しただけでなく、KOHHの音楽的な才能を広く知らしめるきっかけにもなりました。

ミュージックビデオ

「忘却」のミュージックビデオは、yahyelのメンバーである山田健人が監督を務めました。山田は、歌詞の内容を深く理解した上で、生と死、実体と虚像を表現した映像美を追求しました。ミュージックビデオでは、宇多田とKOHHがそれぞれ異なるシーンに登場し、二人の生き様を対比的に描いています。また、アナログのエフェクトを効果的に使用することで、独特の雰囲気を作り出しています。

受賞・披露

「忘却」は、「MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN」で「BEST COLLABORATION VIDEO」を受賞しました。また、2016年12月9日には、ネットイベント「30代はほどほど。」で宇多田とKOHHが共にこの曲を披露しました。このイベントでは、曲のアウトロから「人魚」へとシームレスに移行するパフォーマンスが話題となりました。

「忘却」は、宇多田ヒカルとKOHHという二人の才能が融合した、革新的な楽曲です。音楽性、歌詞、ミュージックビデオ、すべてにおいて高い評価を受けており、日本の音楽史に残る名曲の一つと言えるでしょう。

クレジット

Written by Utada Hikaru and Chiba Yuki
Recorded by Mike Horner at RAK Studios, Matsui Atsushi at Bunkamura Studio
All Vocals Recorded by Utada Hikaru, edited by Komori Masahito
Additional Engineering by Darren Heelis
Mixed by Steve Fitzmaurice at Pierce Room
Featured Artist: KOHH
Vocals and Programming: Utada Hikaru
Electric Bass: Yamaguchi Hiroo
* Drums: Sylvester Earl Harvin

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