Fantome

アルバム『Fantôme』の概要

宇多田ヒカルの6thアルバム『Fantôme』は、2016年9月28日にUNIVERSAL MUSICからSHM-CD形式でリリースされた。このアルバムは、音楽活動を休止していた期間を経ての復帰作であり、前作『HEART STATION』以来約8年半ぶりのオリジナルアルバムとなる。全11曲が収録されており、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のテーマソング「桜流し」をはじめ、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌「花束を君に」、ニュース番組のテーマソング「真夏の通り雨」などが含まれている。

作品の背景と制作の軌跡

このアルバムは、宇多田の母・藤圭子に捧げられたもので、自身のプライベートな喪失感を普遍的なポップソングに転換した作品とも評されている。アルバム制作は2015年3月から始まり、その後ファーストシングル「花束を君に」と「真夏の通り雨」が先行配信された。宇多田自身は母の死を受けて音楽へのアプローチが変わり、歌詞に対するセンサーシップを乗り越え、自由な表現ができるようになったと述べている。

音楽性とテーマ

『Fantôme』は、主に日本語の歌詞で構成されており、日本語のポップスを重視する姿勢が反映されている。十分な音数を使いつつも、ダイレクトに宇多田の声や言葉を届けるためのシンプルで洗練されたアレンジが特徴である。アルバムタイトルの「Fantôme」はフランス語で「幻」を意味し、母の気配を感じることを象徴している。

コラボレーションと参加アーティスト

本作では、宇多田と長年の親交がある椎名林檎、ラッパーのKOHH、Tokyo Recordingsの小袋成彬が各楽曲でフィーチャリングとして参加している。特に「二時間だけのバカンス」では椎名林檎とのコラボが実現し、互いの音楽的な親しさが反映された一曲となっている。また、KOHHとの「忘却」では、ヒップホップ的なアプローチが新たな試みとして評価されている。

レコーディングと制作プロセス

アルバムはロンドンを拠点に録音され、大部分の楽曲は生楽器を使用したアプローチで制作された。アレンジはアデルやU2のエンジニアであるスティーヴ・フィッツモーリスが手掛け、緻密でありながらも柔らかい音造りがなされている。宇多田は自らのスケジュール管理の難しさに触れつつ、効率的な作詞方法を導入して曲を仕上げていった。

プロモーションと大衆受け

リリース当初から多くのメディア露出を果たし、4週連続でオリコン1位を獲得するなど大衆的にも成功を収めた。第58回日本レコード大賞では最優秀アルバム賞を受賞し、CDショップ大賞など、数々の音楽賞を受賞している。本作は日本のみならず、アジア各国やアメリカでも高評価を得る結果となり、全世界でのファンの支持を集めた。

結論

『Fantôme』は、宇多田ヒカルが母の影響を受けながら新たな一歩を踏み出した作品であり、その音楽や歌詞には深い感情が込められている。今作は、日本語ポップスの新たな可能性を広げると同時に、宇多田自身の音楽的成長を示す重要なアルバムとなった。

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