怪奇版画男

『怪奇版画男』について

概要

『怪奇版画男』は、唐沢なをきが1994年から1997年にかけて『ビッグコミックスピリッツ21』で連載した漫画作品です。本作は、日本で初めて版画を使って描かれたコミックとされており、1998年には日本漫画家協会賞の優秀賞も受賞しています。

この作品は、主人公の謎の版画男がさまざまな愉快な出来事を繰り広げるギャグ漫画であり、特筆すべきはページ全体が版画で表現されている点です。通常の漫画がコンピュータを駆使して効率的に制作される中、唐沢は意図的に原始的な手法を選び、手間のかかるローテクな作りを追求しました。セリフ以外は基本的に木版で作成され、さまざまな刷り方を用いた独自の作品が展開されるのです。

制作過程

『怪奇版画男』の制作は非常に手間がかかり、完成したネームを木板に写して彫り、原稿を刷るというプロセスを経ます。冬場には原稿を乾かすためにストーブやドライヤーを使用するなど、試行錯誤が重ねられました。連載初期には1ヶ月で6ページを仕上げるのが精一杯だったといいますが、アシスタントも利用しつつ、作者は20倍もの労力をかけて制作に臨んでいました。

このような苦労にも関わらず、原稿料は一般的な漫画と変わらず、漫画評論家の夏目房之介からは「コストパフォーマンスの低い作品」と評価されることもありました。しかし、唐沢自身はその手間と不条理さを笑いに変えたいという思いを持っており、苦労を重ねる中でも作品の仕上がりに満足感を抱いていたのです。

キャラクターとストーリー

主人公の版画男は、特徴的な黒タイツ姿をしたキャラクターで、性格は凶暴で暴力的です。版画を軽視する者や、年賀状を木版画で出さない人に対して無情な制裁を加える一方で、美しい紙版画に心を打たれる一面も持っています。そんな彼には、版画を信奉する子供たちが集まる版画教団が存在し、彼の息子もいます。最終的には、難病の少年のために版画を完成させた後、人知れず姿を消しました。

作品内では版画男が作成したさまざまな作品も描かれ、それらは毎回異なるストーリーを織り交ぜながら展開されます。作品は、年賀状や引越し通知、さらにはユーモラスなヘアヌード写真集や信号機の版画など多岐にわたります。

発行物と評価

1998年には『Big spirits 版画 special』という形で単行本が出版され、すべての文章が版画で表現されています。一部書店では美術書として取り扱われることもありますが、原稿や装丁の手間を惜しまず丁寧に作られていることが特徴です。2008年からはオンデマンド出版も開始され、2011年には小学館文庫版が登場しています。

この作品は、唐沢なをきがこれまで発表してきた実験的なギャグ漫画の延長線上に位置し、編集者からも一目置かれたほどの評価を受けました。また、姉妹作として『怪奇版画少女』も存在します。

結論

『怪奇版画男』は、独自の技法と圧倒的なユーモアセンスで、多くの読者に愛されました。漫画としての枠を超え、アートとしても賞賛される本作は、現代漫画の中でも特異な存在です。

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