怪物たち

『怪物たち』（原題：I mostri）は、1963年に公開されたディーノ・リージ監督によるイタリアとフランスの合作映画です。この作品は、イタリアの喜劇映画の新たな潮流「イタリア式コメディ」を代表する作品の一つとして高く評価されており、イタリア国内では空前の大ヒットを記録しました。アメリカ合衆国では、『Opiate '67』や『15 from Rome』といったタイトルで公開されています。

本作は、20の短いエピソードで構成されたオムニバス形式の映画です。各エピソードは独立した物語でありながら、互いに関連しあい、イタリア社会の様々な側面をユーモラスかつ皮肉たっぷりに描いています。ウーゴ・トニャッツィとヴィットリオ・ガスマンという、当時イタリアを代表する名優2人が全エピソードに出演しているのも特徴です。

エピソードの題材は多岐に渡り、官僚主義、政治腐敗、人間のエゴイズム、社会の不平等など、現代社会の闇ともいえる様々な問題をコミカルなタッチで表現しています。例えば、公務員の怠慢や不正、権力者の横暴、人間の弱さや愚かさ、社会における不条理など、観る者に考えさせられる内容となっています。しかし、単に批判的な映画というわけではなく、ユーモアと風刺を巧みに織り交ぜることで、観客を惹きつけ、考えさせる力を持っています。

『怪物たち』の成功は、その独特の構成と、社会風刺の巧みさ、そして名優たちの演技力によるところが大きいでしょう。それぞれのエピソードは短く、テンポも速いため、飽きさせずに最後まで観ることができるのも魅力です。また、それぞれのエピソードは独立しているので、どのエピソードから観始めても楽しめます。

『怪物たち』は、公開から数十年経った現在でも、その魅力は色あせていません。イタリア社会の現実を鋭くえぐりながらも、ユーモアを忘れない、この作品は、今もなお多くの人々に愛され続けています。

1977年には、続編となる『新怪物たち（I nuovi mostri）』が制作されました。こちらも高い評価を受け、第52回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされました。オリジナル版と同様にオムニバス形式で構成されており、イタリア社会の様々な問題を扱っています。

『怪物たち』は、単なる喜劇映画にとどまらず、イタリア社会の断面を映し出す鏡のような作品です。そのユーモアと風刺は、時代を超えて、現代社会にも通じる普遍的なテーマを提示していると言えるでしょう。また、この作品は、イタリア式コメディというジャンルを代表する作品であり、その後のイタリア映画にも大きな影響を与えました。

本作品はスペインでは検閲の対象となったという点も興味深い事実です。これは、本作品の社会への批判的な姿勢が、当時のスペイン政府にとって容認できないものだったことを示唆しています。

『怪物たち』は、そのユーモアと風刺を通して、私たち人間の本質、そして社会のあり方について、改めて考えさせられる作品です。イタリア映画史における重要な作品の一つであり、一度は観ておく価値のある映画と言えるでしょう。

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