怪盗紳士ルパン

怪盗紳士ルパン

『怪盗紳士ルパン』（原題: Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur）は、フランスの作家モーリス・ルブランが生み出した不朽のキャラクター、アルセーヌ・ルパンの物語を集めた記念すべき最初の短編集です。1907年に単行本として発表され、これをもって怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの伝説が幕を開けました。日本語訳のタイトルとしては、『怪盗紳士』のほか、『強盗紳士』といった表記も見られます。

この短編集の冒頭を飾る第一話「アルセーヌ・ルパンの逮捕」は、まさに変幻自在の主人公、アルセーヌ・ルパンが物語世界に初登場する重要なエピソードです。しかし、その初登場と同時に逮捕されてしまうという波乱の展開を見せます。続く第三話「アルセーヌ・ルパンの脱獄」では、早くも鮮やかな手腕で監獄からの脱出を果たし、ここから怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの目覚ましい活躍が本格的に描かれていきます。

物語は単なる盗みの記録にとどまらず、ルパンという人物の多面性に迫ります。例えば、第五話「王妃の首飾り」では、彼の複雑な人格を形作った幼少時代の一部が垣間見えます。また、第六話「ハートの7」では、物語の語り手である「わたし」、すなわち後にルパンの伝記作家となる人物との出会いが描かれており、シリーズの骨子となる関係性が築かれます。さらに、第九話「遅かりしシャーロック・ホームズ」（原著ではハーロック・ショルメスとして登場）では、探偵界の巨星であるシャーロック・ホームズをモデルとしたキャラクターとの宿命的な対決が初めて描かれます。このように、本書には後のシリーズで繰り返し描かれる重要な設定やキャラクター、テーマの萌芽が豊富に含まれており、まさにルパンシリーズのエッセンスが凝縮された一冊と言えるでしょう。

初出は1905年から1907年にかけて、月刊誌「ジュ・セ・トゥ」（「私はすべてを知っている」の意）に掲載された一連の短編です。単行本には以下の作品が収録されています。

アルセーヌ・ルパンの逮捕 (L'Arrestation d'Arsène Lupin)
獄中のアルセーヌ･ルパン (Arsène Lupin en prison)
アルセーヌ・ルパンの脱獄 (L'Évasion d'Arsène Lupin)
謎の旅行者 (Le Mystérieux voyageur)
王妃の首飾り (Le Collier de la reine)
ハートの7 (Comment j'ai connu Aresène Lupin : Le Sept de cœur)
アンベール夫人の金庫 (Le Coffre-fort de Madame Imbert)
黒真珠 (La Perle noire)
遅かりしシャーロック･ホームズ (Herlock Sholmes arrive trop tard) - 雑誌初出時タイトル：Sherlock Holmes arrive trop tard*

なお、1932年にアシェット社から刊行された『疑問符（Le Point d'interrogation）』選集の一巻として出版された際には、オリジナル版から二編が削除されるという異同が見られます。具体的には「アンベール夫人の金庫」と「黒真珠」が収められず、代わりに『ルパンの告白』に収録されている「うろつく死神」が一編加えられています。これにより、同じタイトルでありながら収録作が異なるバージョンが存在することになります。

『怪盗紳士ルパン』は、ルパンという魅力的で複雑なキャラクターの紹介、そして彼の活躍を描く冒険物語の始まりとして、今なお世界中の読者を魅了し続けている古典的名作です。

もう一度検索