恋のハーフムーン

恋のハーフムーン

「恋のハーフムーン」（こいのはーふむーん）は、日本のシンガーソングライター、太田裕美が1981年3月に発表したシングルレコードです。この楽曲は、前作にあたる「さらばシベリア鉄道」に続き、作詞を松本隆、作曲を大瀧詠一が担当するという、当時の音楽シーンを牽引していたゴールデンコンビが再び組んだことでも注目を集めました。

楽曲制作の背景と特徴

この「恋のハーフムーン」の制作にあたっては、単に作曲家としてだけでなく、編曲およびサウンドプロデュースも大瀧詠一自身が担当するという、特別な体制がとられました。これは、レコード会社である渡辺音楽出版からの強い要望があってのこととされています。

大瀧は、この曲とカップリング曲の「ブルー・ベイビー・ブルー」のインストゥルメンタル部分（オケ）を制作するために、通常のレコーディングプロセスとは異なる、ある特殊な手法を採用しました。一般的な楽曲制作では、事前に詳細な楽譜（書き譜）を用意し、それに従ってミュージシャンが演奏を行うのが基本です。しかし、このセッションでは、書き譜にあまり頼らず、レコーディングの現場でミュージシャンたちの演奏を聴きながら、その場でアレンジを詰めていく「ヘッドアレンジ」という手法が積極的に取り入れられました。

さらに、この制作には当時の日本の音楽シーンで一線級と称されるトップミュージシャンたちが多数起用されました。彼らの卓越した演奏能力を生かしつつ、ヘッドアレンジによって柔軟かつ緻密なサウンドを構築しようとしたのです。

このような異例ともいえる制作体制と手法の結果、レコーディングには通常では考えられないほどの長時間を費やすこととなりました。特に、二曲分のオケ制作に集中して時間がかけられ、その結果、最終的にかかった制作費は、シングル一枚としては破格であり、通常、アルバム一枚を制作するのに匹敵するほどの高額になったという逸話が今日まで語り継がれています。これは、大瀧詠一がこの楽曲のサウンドに対して、いかに妥協なく、徹底的にこだわり抜いたかを示すエピソードと言えるでしょう。

収録曲詳細

本シングル盤には、以下の二曲が収録されています。

A面：恋のハーフムーン
収録時間：4分09秒
作詞：松本隆
作曲・編曲：大瀧詠一
ストリングス＆ホーンアレンジ：松任谷正隆

B面：ブルー・ベイビー・ブルー
収録時間：4分25秒
作詞：松本隆
作曲：大瀧詠一
編曲：大瀧詠一・荒川康男

特にA面「恋のハーフムーン」においては、大瀧詠一自身による編曲に加えて、松任谷正隆がストリングスとホーンのアレンジを手掛けており、その豪華で深みのあるサウンドが大瀧サウンドの特徴と融合しています。

このように、「恋のハーフムーン」は、太田裕美の歌声はもちろんのこと、松本隆の詩世界、大瀧詠一のメロディーと革新的なサウンドプロデュース、そしてトップミュージシャンたちの演奏技術が結集して生まれた、日本のポップス史においてもユニークな背景を持つ一曲として記憶されています。その制作秘話は、当時の音楽制作の現場における情熱とコスト感覚を示す興味深いエピソードとしても、今なお多くのファンに語り継がれています。

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