恋わずらい (ステーンの絵画)

恋わずらい

『恋わずらい』（こいわずらい）、または『病気の娘』（びょうきのむすめ）は、オランダ黄金時代を代表する画家ヤン・ステーンが1660年に制作した油彩画です。この作品は、ウィレム5世のコレクションに加わったのち、ナポレオン戦争の際にフランス軍に接収され、1795年から1815年までパリの中央美術館で展示されていました。1816年に返還された後、ウィレム5世ギャラリーで展示されたのち、1822年からデン・ハーグのマウリッツハイス美術館に所蔵されています。

主題

ステーンは「恋わずらい」に関連する作品を数多く描きました。このテーマに関する絵は20点近くにも及び、描かれているのは主に病に苦しむ若い女性とその医師です。彼が影響を受けた可能性のあるフランス・ファン・ミーリスが1657年に最初の『医師の往診』を描いたことから、ステーンの作品も生まれたと考えられています。また、同様のテーマに取り組んだ他の画家たちもおり、ハブリエル・メツーやゴドフリート・スカルッケンなどがいます。これらの作品は、オランダの絵画における重要なテーマであり、時代を反映したものともいえるでしょう。

「恋わずらい」とは、当時の人々にとって理解しやすい病名であり、主に若い女性が「フロール・ウテリヌス」と呼ばれる子宮に関連した病に罹っていると描かれます。この病は、禁欲から生じるものとされ、治療法は結婚して愛する人と共に床に就くことのみに限られていました。その当時の医学は、この病気について真剣に取り組んでいましたが、やがてさまざまな芝居の主題にもなり、仮病を使う娘が頑固な父親を説得するストーリーが広がっていきました。

作品の詳細

ステーンの『恋わずらい』に描かれた女性たちは、天蓋のあるベッドに横たわるか、椅子に座っている姿が見られます。作品の中で医師は古風な服装をしており、しばしば滑稽なキャラクターとして描かれています。若い女性は、脈をとろうとする医師に腕を差し出すことすら困難な状態です。背景には、一人の召使いが興味深く見つめ、他の一人は暖炉に石炭をくべています。石炭が赤く燃えている様子は、「病んだ子宮」を癒す効果があると考えられていたことを示しています。このようなディテールは、『恋わずらい』のテーマに付き物です。

また、前景右側の犬は見えない恋人を象徴しており、マントルピース上のキューピッドは、愛の矢が女性の病を癒す唯一の治療法であることを示唆しています。

ステーンは、室内の描写において舞台装置のような手法を取り、画面上で交差する二つの壁を使って透視図法を駆使して空間の奥行きを表現しています。物の質感の描写にも優れ、脱ぎ捨てられたスリッパや、検尿用のフラスコを入れた籠などが丁寧に描かれています。さらに、女性のこめかみに描かれた付けぼくろは、彼女の肌の白さを際立たせる工夫でもあります。

このように、ヤン・ステーンの『恋わずらい』は、病気というテーマを流行と風刺を交えながら巧みに描いた作品で、オランダ美術における重要な位置を占めています。

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