恋文 (村下孝蔵のアルバム)

『恋文』（こいぶみ）

アルバム概要

『恋文』（こいぶみ）は、日本のシンガーソングライター、村下孝蔵によって1988年に世に送り出された、彼のキャリアにおける8作目のオリジナル・アルバムに位置づけられる作品です。叙情的で心に染み入る楽曲世界で知られる村下孝蔵が、この時期に到達した音楽的表現の一端を示す重要なアルバムと言えるでしょう。

リリース情報

本作は1988年にオリジナル盤として発表されました。発表から時を経て、より多くの音楽ファンに聴かれる機会を広げるため、1996年にはCD選書シリーズの一つとして再発売が行われています。これにより、オリジナル盤のリリースから年月が経過した後も、比較的手に入りやすい形でリスナーに届けられました。

制作クレジット

アルバムに収録されている全楽曲の作詞および作曲は、全て村下孝蔵自身が手掛けています。自身の内面や日常の風景から紡ぎ出される言葉とメロディは、聴く者の心に静かに語りかけます。

そして、全楽曲の編曲は、名うての音楽プロデューサーでありアレンジャーである水谷公生氏が担当しました。水谷氏による洗練されたアレンジワークは、村下孝蔵の持つメロディの美しさや歌詞の世界観を最大限に引き出し、アルバム『恋文』独自のサウンドテクスチャを形成しています。二人のコラボレーションによって、作品に深みと彩りが加えられています。

収録曲リスト

『恋文』に収められている楽曲は以下の10曲です。

SIDE 1

寒椿
愛情
ネコ
弟
かず君へ

SIDE 2

風のたより
交差点
西陽のあたる部屋
大地
恋文―上海から

特筆すべき楽曲について

アルバム収録曲の中には、いくつかの特徴を持つ楽曲が含まれています。

一つ目は「寒椿」です。この楽曲は、村下孝蔵が1980年代に発表したオリジナル楽曲の中で、極めて珍しい制作アプローチが採用されています。具体的には、楽器演奏の全てをコンピューターやシンセサイザーによる「打ち込み」で構築しているのです。生楽器を主体としたサウンドが特徴的な村下サウンドにおいて、この全編打ち込みによる楽曲は異色の存在であり、当時の音楽技術を取り入れた実験的な試みであったことがうかがえます。

二つ目は「ネコ」です。この曲は、アルバムのリリースに先立って発表されたシングル「風のたより」のカップリング曲、いわゆるシングルのB面として世に出ていました。シングル盤でしか聴けなかった楽曲が、後に制作されたオリジナル・アルバムに収録されることはしばしばありますが、「ネコ」もその例に漏れず、『恋文』に収められることで、アルバムというまとまった形で再び届けられることになりました。

また、アルバムタイトルにもなっている「恋文―上海から」が最後に収録されています。そして、前述の通り、本作には先行シングルである「風のたより」も含まれており、アルバムの核となる楽曲の一つとして位置づけられています。

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