恐ろしき錯誤

恐ろしき錯誤

江戸川乱歩による短編小説『恐ろしき錯誤』は、1923年11月に『新青年』に掲載された作品である。この物語は、学生時代からのライバルである北川と野本の複雑な関係を軸に展開し、恋愛と悲劇が絡み合った深い内容が特徴だ。

執筆背景と評価

乱歩は、当初好評を得ていた短編『二銭銅貨』や『一枚の切符』に後押しされて、この作品を情熱を持って執筆した。しかし、編集長の森下雨村からの評価は芳しくなく、発表が遅れたことを乱歩は不満に感じていた。この作品の掲載が遅れたこともあり、彼はこの年に他の小説を一切書かないという状態に陥っていた。実際、作品の発表後も、自身のスキルに対する不安から再び小説を書く意欲が持てずにいた。しかし、編集部からの強い要望によって『二癈人』を執筆することになり、その結果、創作活動を再開することとなった。

あらすじ

物語は、主人公北川とそのライバル野本の長い因縁から始まる。二人は学生時代から学問や恋愛において常に競い合っていた。北川が下宿している家の娘、妙子は、美しい外見とおしとやかな性格を持つ女性であり、数人の男性たちが彼女に心を寄せていた。その中には北川の友人たちも含まれ、野本も妙子に恋をしていた。彼が下宿に訪れるたびに、周囲が盛り上がり、妙子の笑顔が見られたため、北川の友人たちは彼が妙子と親密になったと勘違いしていたが、意外にも妙子は北川と結婚することになる。

結婚後、北川と妙子の生活は一見順調に思えた。彼らは二人の子どもにも恵まれ、平和な家庭を築いていた。しかし、その幸福な日常は突然の火事によって覆される。北川が自ら子どもを抱えて家から逃れた後、妙子が何かに引き寄せられるように燃え盛る家に戻っていくのだ。北川は妙子に追いかけるよう叫ぶが、彼女は再び戻ってしまい、焼死してしまう。

夫の悲しみと喪失感は深く、近所の友人越野がある重要な情報を持ち出す。彼は、家に戻る前に妙子に何かを言った男の存在について言及する。その男の顔は、北川の友人たちの誰かに似ていた。北川は、妻を死に追いやった真相を追求する決意を固め、その人物に精神的な打撃を与える方法を考える。

登場人物

• - 北川：本作の主人公であり、無愛想で目的を達成するために集中する性格を持っている。
• - 野本：北川のライバル。快活で理想主義的だが、北川が結婚した後も独身を貫いている。
• - 妙子：北川の妻で、魅力的な外見を持ち、周囲の男性たちを惹きつける存在だった。
• - 越野：北川の学生時代からの友人で、火事の際に手伝いをする重要な役割を果たす。

この短編には、競争、愛情、悲劇が交錯し、登場人物たちの感情がリアルに描かれている。乱歩の作品は、笑いや喜びだけでなく、深い悲しみや虚無感をも同時に届けるところにその魅力がある。

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