一枚の切符

一枚の切符

『一枚の切符』は、江戸川乱歩による短編の探偵小説で、1923年に『新青年』に掲載された作品です。乱歩の初期の創作のひとつでありながら、一般的には「二銭銅貨」が彼の処女作とみなされることが多いです。この理由の一つには、『一枚の切符』があまりに完成度が高く、外国の推理小説を模倣したのではないかとの疑念が生じたためです。実際には、乱歩の独自の視点が光る作品であり、他の作品同様に彼の個性的なスタイルが存分に発揮されています。

登場人物

• - 左右田 五郎（そうだ ごろう）: 大学生の語り手。探偵的な興味を持ち、尊敬する富田博士が疑われている事件を追います。
• - 松村（まつむら）: 左右田の親友であり、相談相手でもあります。
• - 富田博士（とみたはかせ）: 著名な学者であり、妻の殺人に関して容疑がかけられています。
• - 黒田 清太郎（くろだ せいたろう）: 名探偵として知られる刑事。

あらすじ

物語は、左右田と松村が話し合う場面から始まります。彼らは、左右田が尊敬する富田博士が妻の死亡をめぐって疑いをかけられている件について討論しています。博士の妻は列車に轢かれて亡くなったものの、その周囲には博士を有罪とする証拠が存在しました。具体的には、状況証拠や目撃証言が彼の有罪を示唆していたのです。

しかし、左右田は富田博士の無罪を信じており、その理由を彼なりに探り始めます。松村は左右田の主張に対し懐疑的ですが、左右田は博士の無罪を証明する証拠があると強く主張します。物語が進むにつれ、左右田は自らの推理を駆使して事件の核心に迫ることになるのです。

物語は新聞記事を通じて進展します。左右田の寄書きが翌日の新聞に掲載され、その中に含まれた内容は読者に衝撃を与えるものでしました。左右田の推理がどのように展開され、富田博士の運命がどうなるのかが、物語の緊迫感を高めています。

『一枚の切符』は、乱歩の独自の視点から描かれた作品であり、彼の一貫したテーマである探偵活動が息づいています。論理的な推理が展開される中で、人間の心の複雑さや不条理さも表現されており、単なる推理小説を超えた深いテーマ性が感じられます。

この短編は、角川文庫『白髪鬼』や春陽堂の『心理試験』などに収録されており、今後も多くの読者に読み継がれることでしょう。また、江戸川乱歩の他の作品ともあわせて楽しむことで、より彼の探偵小説の魅力を味わってもらえると思います。

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