恩田祐一

恩田 祐一（おんだ ゆういち）氏は、1980年6月24日に新潟県中頸城郡妙高高原町（現・妙高市）に生まれ、日本のクロスカントリースキー界を牽引した元選手です。近畿大学を卒業後、複数の実業団を経て、2011年秋からはアークコミュニケーションズスキーチームに所属しました。オリンピックに二度出場するなど、日本のクロスカントリースキー男子における第一人者として知られています。

競技スタイルと得意種目

恩田選手の競技スタイルは、レース序盤から積極的に攻める「先行逃げ切り型」を得意としていました。多くの大会でレースの中盤や終盤まで先頭集団を牽引する姿が見られました。日本では数少ない、0.8kmから1.8km程度の短い距離を争うスプリント種目のスペシャリストであり、この種目で輝かしい成績を残しています。

クロスカントリースキーには、スキーを平行に動かす伝統的な「クラシカル」走法と、スキーを斜めに開きスケートのように雪面を蹴って進む「フリー」走法がありますが、恩田選手は特にクラシカルを得意としていました。

競技との出会いと歩み

スキーとの関わりは物心つく前から始まりましたが、クロスカントリースキーとの決定的な出会いは小学校3年生の時でした。授業でアルペンスキーかクロスカントリーを選択する機会があり、姉や友人も選んだクロスカントリーへ進みました。本人は後に「寂しがり屋だったから」と語っており、周囲との関係性も競技を始める一因だったようです。

幼少期には、野球にも興味を持ち、夏場に陸上トレーニングが必要なクロスカントリーを辞め、夏場のスケジュールが比較的空いているノルディック複合への転向を真剣に検討した時期もありました。しかし、クロスカントリーの大会で優勝した経験がその魅力を再認識させ、結局クロスカントリーに没頭することになりました。低学年の頃に、負けず嫌いな性格ゆえに、勝てそうにない高学年選手との試合を辞退したエピソードもあり、この負けず嫌いは幼少期から顕著だったことがうかがえます。

小学校6年生時には児童会長を務めるなど、リーダーシップも発揮しました。

当初は大学に進学せず実業団入りを目指していましたが、高校2年時に靭帯を損傷したことで企業からのアプローチがなくなり、大学進学を決意しました。大学では、中学・高校時代を共に過ごした先輩である駒村俊介選手を慕い、強豪の近畿大学へ進学しました。

大学では1年生から強化選手に選ばれ、世界ジュニア選手権での12位を皮切りに、順調に成績を伸ばしました。しかし、その後オーバーワークが原因でスランプに陥り、3年生時には強化指定を外される挫折も経験しました。この悔しさをバネに、その年の全日本選手権ではオリンピック選手らを抑え、スプリントと50kmの2種目で優勝を飾る復活を果たしました。

競技人生におけるエピソード

リハビリのため国立スポーツ科学センター（JISS）でトレーニングしていた時期には、同じくリハビリ中だったサッカーの稲本潤一選手（当時フランクフルト所属）と知り合い、そのプロ意識に大きな刺激を受けました。現在も交流は続き、2007年のワールドカップで日本人男子歴代最高となる4位入賞を果たした際には、稲本選手からの助言があったことが報じられています。また、同じくサッカーの中田浩二選手とも交流がありました。

2006年の世界選手権では、競技前の血液検査で規定のヘモグロビン値を上回ったため、一時的に出場停止となりました。しかし、本人は先天的にヘモグロビン値が高い体質であることを国際スキー連盟に訴え、その後の再検査や審査を経て、規定値を上回っても競技会に出場できる特例認定を受けました。男性の基準値が13.0～16.6g/dlとされる中で、恩田選手の平常時の数値は17.0g/dlに達するというこのエピソードは、アスリートとしての潜在能力の高さを物語っています。

クロスカントリースキーという屋外での活動が中心の競技選手でありながら、趣味は昼寝、DVD鑑賞、インターネットと、意外にもインドアな一面も持ち合わせていました。

2007年シーズンのワールドカップ開幕戦後には、細菌感染により急遽左足の手術を受けましたが、驚異的な回復力を見せ、同シーズンのワールドカップ最終戦で戦列に復帰し、見事6位入賞を果たしました。

怪我からの復帰後は、年間を通して高いパフォーマンスを発揮できる体作りを目標に掲げました。持久力強化のためランニングやローラースキー、登山を積極的に取り入れ、また上半身・下半身の筋力強化を目指したレジスタンストレーニングを日々重ねた結果、体脂肪率は9%にまで絞り込まれました。

2009年には、栄光ゼミナールの集中講義合宿で壇上に立ち、「君たちも受験は2月が本番。僕も2月に大きな本番を迎えます。夏に努力して鍛えた者が冬に勝利を得られる。受験もウインタースポーツも一緒です」と、自身の経験を交えながら受験生へ熱いエールを送りました。受験シーズンにはタブーとされる「滑る」競技ではありましたが、栄光ゼミナール側からは「7万人の生徒の分まで滑り切り、代表して表彰台に立って欲しい」と応援を受けました。

2010年1月に行われた伊藤杯全日本チャンピオンスキーレースで2位となり、自身二度目となるバンクーバーオリンピック出場を確実にしました。バンクーバー五輪直前には、野沢温泉での公開合宿が話題となりました。オリンピック終了後、早くも次のソチオリンピックを目標に掲げ、現役続行を表明しています。

2009年度のワールドカップ終了後には、4年後のソチ五輪を見据えながらも、並行して就職活動に取り組んでいることが記事になっています。

2011年9月には、アークコミュニケーションズと日本初のレベニューシェア制による所属契約を締結し、アークコミュニケーションズスキーチームの一員となりました。

2014年2月のソチオリンピック競技終了後、マウンテンバイクでのオリンピック出場を目指す意向を示し、「ミヤタ・メリダ ハイキングチーム」に所属しましたが、残念ながら出場は叶いませんでした。

2015年3月14日には、バンクーバーオリンピックで共に日本代表だった柏原理子氏と結婚しました。

そして、2018年10月31日、自身のブログを通じて現役からの引退を発表しました。

逸話

年間を通して海外遠征が多いことから英語が堪能だと誤解されがちですが、本人は「まったく得意ではない」と語っています。カナダ合宿中にホテルのフロントで部屋番号（11号室）を伝える際、「イレブン」と言っても通じず、ジェスチャーで伝えたところようやく理解されたというエピソードを明かし、自分の英語力のなさにショックを受けたといいます。

かつて自身のブログで冗談交じりに「クロカン王子」と称したところ、ラジオ出演時にそのまま「クロカン王子の恩田祐一さんです」と紹介されてしまい、笑いながらも「見てわかると思うんですが、自分はそんなキャラじゃない」と恐縮気味に否定したという逸話があります。

小学生の頃、ポテトチップスは牛乳と一緒に食べれば体に悪くないと本気で信じていたため、食べ過ぎてかなり太っていた時期があったそうです。

主な競技成績

オリンピック: 2006年トリノ五輪、2010年バンクーバー五輪に出場。最高位は個人スプリント17位。
ワールドカップ: スプリント種目でTop10入りを多数記録。2007年3月と2009年3月に4位に入り、これはワールドカップ男子個人の日本人歴代最高成績です。
アジア冬季競技大会: 2007年長春大会で個人スプリント優勝、リレー準優勝。2011年アスタナ・アルマトイ大会で個人スプリント3位。
全日本スキー選手権大会: スプリント、50kmクラシカル、4x10kmリレー、チームスプリント、20kmパシュートなど、複数種目で優勝しています。

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