恩誼の紐

恩誼の紐

松本清張による短編小説『恩誼の紐』は、1972年の『オール讀物』に初めて掲載され、1973年8月には短編集『火神被殺』に収められました。この作品は、九歳の辰太とその祖母・ヨシの関係を基に、家族間の秘密や愛情、そして陰惨な違和感を描き出します。

あらすじ

物語は、辰太が祖母のヨシを訪ねるところから始まります。彼の祖母は「ババやん」と呼ばれ、中国地方の方言で親しみを込めて呼ばれています。辰太は、平吉という男が父親として存在していますが、実際はヨシの実の息子ではありません。家ではババやんと呼ばれる祖母と、冷たい雰囲気を纏った女性が共に暮らしています。辰太は、ババやんが奥さんの使いにされている姿を目の当たりにし、その状況を不憫に思うのです。

物語が進むにつれ、辰太は祖母が丸三年間働き続けた家の中で、家族の暗い秘密が徐々に明らかになっていきます。その秘密の中心には、辰太の父である平吉の影が隠れており、晩年の奥さんとの関係性が重要なポイントとして浮上します。

ある日、冷たい風が吹く中、辰太はババやんの元に泊まり、早く起きるはずの奥さんが何もせずに寝ている姿を不思議に思います。すると、奥さんが睡眠薬を服用していたことが明らかになりますが、その後の展開は悲劇的なものとなります。辰太の心に潜む疑念や、祖母との対話が彼を深い思索に誘い、家族の中で暗がりがあぶり出されてゆきます。

事件の核心

物語の中で、平吉は奥さんの死の晩に、その家の周辺をうろついていたとの目撃情報が存在します。平吉は後に警察に逮捕されますが、証拠不十分により無罪となります。ここに至り、辰太の心の内に秘めた奥さんとの密接な関係と、彼自身が引き起こした事件が繋がるようです。九歳の子供が持ち得る無垢な意識と罪の意識が交錯し、物語全体に緊張感を与えます。

ババやんの死

時が流れ、辰太は成長し、祖母ヨシの死を見届ける時がやってきます。彼女が亡くなる直前、感慨深い声で「悪いことはするなや」と告げます。この言葉に、彼に向けられた母性的な愛情や、暗い過去への警告が感じられるのです。辰太は、ババやんが知っていたこと、自身の行動が引き起こした結果に思いを馳せつつ、彼女との思い出を胸に飾ります。

この作品は松本清張自身の幼少期の回想を元に創作されており、他の作品との関連性もあることが確認されています。特に、家族の絆、貧しさ、そして家族間の秘密が物語の重要なテーマであり、読者に深い思索を促す内容となっています。

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