火神被殺

火神被殺

松本清張による短編小説『火神被殺』は、1970年9月に『オール讀物』に掲載され、その後1973年に短編集として文藝春秋から刊行されました。この作品は、昭和41年10月に島根県の出雲湯村温泉の近くで発見された白骨死体を通じて、複雑な人間関係と人の過去が引き起こす事件を描いています。

あらすじ

物語は、島根県の山林で発見されたバラバラの白骨死体から始まります。死体の状態や腰部の骨がないことから、死因や時期に関する疑問が持たれます。特に、死亡時期は昭和40年の晩春から秋であると推定され、事件の背後に何があったのかが探られていきます。

主人公の甥、木谷利一は元警察官で、過去の捜査イベントを思い返しながら、この白骨事件と宿帳の書き替えについての関係性を考えています。彼は、松江市内での旅館捜査時の出来事を掘り起こし、宿帳に記載された宿泊客名の不一致に糸口を見出します。この宿帳の不備が、後の白骨事件にどのように結びつくのかを考察することが物語の進行に影響を与えます。

さらに、主人公はこの事件の情報を提供した同級生、砂村保平助教授と情報を交わしながら、出雲国風土記と神賀詞に関する研究を深めていきます。砂村とその仲間たちの集まりには、変わった風貌の人物、長谷藤八が含まれています。この長谷藤八が、後に警察に捕まる窃盗の常習犯であることが明らかになります。

物語が進むにつれ、長谷藤八の過去や彼がどのようにして事件と絡んでいるのかが奉じられ、捜索が続きます。長谷藤八は満期で出所しますが、彼が姿を消すことで物語に緊張感が生まれます。主人公であるぼくと甥は、出雲路に足を運び、真相を明らかにするための旅に出ることになります。

エピソード

松本清張は、1968年から1969年にかけての取材を背景にこの作品を執筆したとされており、著者の仕事への真摯な態度が伺えます。また、推理小説評論家である権田萬治は「古代史の知識が結末の意外性を生む要素」として評価し、作品のトリックが法医学的知識に裏打ちされていることも印象的だと述べています。詩人の天沢退二郎も、物語の冒頭部分における一人称の語り口が後の解決部に繋がる伏線として機能していると指摘しています。

結論

『火神被殺』は、古代史や人間関係を絡めたミステリーであり、松本清張の独自の視点が色濃く表現された作品です。出雲という豊かな文化的背景と人物間の微妙な心理が交錯する様子は、読者に強く印象づけられ、その結末には深い余韻を残します。

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