悪なき殺人

悪なき殺人：複雑に絡み合う人間模様と衝撃の真実

2019年公開のフランス・ドイツ合作スリラー映画『悪なき殺人』(原題: Seules les bêtes)は、コラン・ニエルの小説を原作とするサスペンスフルな作品です。雪深いフランス中部のコース高原を舞台に、一人の女性の失踪事件を軸に、複数の登場人物の視点から物語が展開していきます。それぞれの視点が徐々に交錯し、隠された真実が明らかになるにつれて、観客は予想外の展開に翻弄されることでしょう。

物語の始まり：失踪事件と絡み合う人間関係

物語は、酪農を営むミシェルとその妻アリス、孤独な羊農家のジョゼフ、そしてパリから別荘に訪れたエヴリーヌという4人の主要人物を中心に展開します。アリスは、家業のかたわら共済組合の仕事も請け負い、その中でジョゼフと知り合います。アリスはジョゼフに一方的な好意を抱いていますが、ジョゼフはアリスの愛情に気づいておらず、常に心を閉ざしている様子でした。

ある日、エヴリーヌがコース高原の別荘で失踪します。警察の捜査が始まりますが、手掛かりは掴めません。一方、アリスはジョゼフの家に押しかけ、追い返されます。ミシェルは、妻とジョゼフの関係に気づいていますが、特別な行動はしません。そして、ミシェル自身も失踪してしまいます。

隠された真実と衝撃的な結末

ジョゼフの家に、失踪したエヴリーヌの遺体が発見されます。ジョゼフは孤独を愛する性格で、遺体と添い寝することに安堵を感じていました。しかし、アリスの訪問で安全ではなくなったと感じ、遺体を荒野の深い岩の亀裂に遺棄し、自らも投身自殺します。

物語はさらに、パリで働く若い女性マリオンの視点も取り入れます。マリオンはエヴリーヌと一夜を過ごし、別れた後にエヴリーヌが失踪したことを知ります。マリオンは、コース高原の別荘までエヴリーヌを追いかけますが、エヴリーヌはマリオンを疎ましく思い、関係を断ち切っていました。

一方、ミシェルは、ネット上で女性を探し、アフリカ出身のアルマンと知り合います。アルマンは、ネット詐欺でミシェルからお金を騙し取ります。ミシェルは、金髪のマリオンをアルマンが騙した女性と誤解し、エヴリーヌを殺害してしまいます。アルマンはコートジボワールの警察に逮捕され、ミシェルはアルマンを殺害しようとしますが、結局は諦めます。

多様な登場人物と巧みな視点の切り替え

映画は、ミシェル、アリス、ジョゼフ、エヴリーヌ、マリオン、アルマンなど、複数の登場人物の視点から物語を構成することで、事件の真相を徐々に明らかにしていきます。それぞれの登場人物の動機や背景、人間関係が複雑に絡み合い、観客は事件の全貌を理解するために、それぞれの視点から得られた情報を繋ぎ合わせていく必要があります。

映画的評価と受賞歴

『悪なき殺人』は、その巧みな構成と演出、そして俳優陣の優れた演技によって高い評価を得ています。Rotten Tomatoesでは93%の高評価を得ており、Metacriticでも高いスコアを獲得しています。また、第32回東京国際映画祭では、最優秀女優賞(ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ)と観客賞を受賞しました。

まとめ

『悪なき殺人』は、スリリングな展開と予想外の結末、そして複雑に絡み合う人間関係によって、観客を最後まで魅了する作品です。それぞれの登場人物の視点が交錯し、真実が少しずつ明らかになる過程は、まるでパズルのピースがはまっていくように、視聴者に深い満足感を与えてくれるでしょう。 フランスの田舎の風景と、登場人物たちの心理描写が見事に融合した、忘れがたい映画体験となることは間違いありません。 単なるミステリー映画の枠を超え、人間の業や孤独、そして愛憎といった普遍的なテーマを深く掘り下げている点も本作の魅力です。

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