悪太郎 (1963年の映画)

『悪太郎』：破天荒な青春と自由の賛歌

今東光による自伝的小説『悪太郎』、そしてそれを映画化した鈴木清順監督作品(1963年)は、青春の奔放さと自由、そして社会との摩擦を鮮やかに描いた作品として知られています。1958年から1959年にかけて「週刊サンケイ」に連載され、その後書籍化、文庫化と、幅広い読者に支持されました。

物語の中心人物は、神戸の船長の長男である紺野東吾。関西学院中学に通う彼は、谷崎潤一郎やスタンダールを愛読する文学少年でありながら、女たらしの一面も持ち合わせています。物語は、彼の数々の恋愛遍歴と、それによって引き起こされる数々の問題行動、そして周囲との衝突を通じて展開していきます。

学院での恋愛騒動をきっかけに退学処分となった東吾は、母とともに淡路島、そして豊岡へと移り住みます。彼は、それぞれの場所で新たな女性関係を築き、自由奔放な生活を送ります。豊岡市立中学校への編入試験では、試験をボイコットするなど型破りな行動を繰り返します。学校では制服を着なかったり、たばこを吸ったりするなど、校則を無視する行為で風紀委員と衝突する場面も描かれています。

そんな東吾は、ストリンドベリの『赤い部屋』を愛読し、その影響は彼の生き様にも表れています。岡村医院の娘、恵美子との出会いは、彼の青春に新たな彩りを与えます。恵美子は、東吾と同じく『赤い部屋』を読み、彼と恋に落ちます。しかし、恵美子の父である岡村医師は、女性関係に奔放な人物であり、それが東吾と恵美子の関係に影を落とします。

二人は京都へ旅行に出かけますが、そこで風紀委員に見つかり、騒動を起こします。最終的に、東吾は学校を退学となり、神戸に戻ります。彼は西鶴の発禁本を読みふけり、岡村医師と激しい対立を繰り広げます。そして、ついに東京へと向かう決意をします。しかし、東京で彼は、最愛の女性、美津子の死の知らせを受け、深い悲しみに沈むことになります。

映画版『悪太郎』では、山内賢が主人公の紺野東吾を演じ、和泉雅子、田代みどり、久里千春、高峰三枝子、芦田伸介、佐野浅夫ら実力派俳優が脇を固めました。鈴木清順監督による独特の演出は、原作の世界観を見事に映像化し、大きな話題を呼びました。映画では、東吾の通っていた学校は「神戸新星中学」という仮名で描かれています。1965年には続編『悪太郎伝 悪い星の下でも』も制作されました。

『悪太郎』は、単なる青春物語にとどまらず、時代の閉塞感や社会の矛盾、そして個人の自由と抑圧といった普遍的なテーマを内包した作品と言えるでしょう。主人公の奔放な行動は、時に批判の対象となる一方で、彼の自由への強い意志と、その裏に潜む繊細な心を映し出しています。自由と規範、個と社会の葛藤、そして青春の痛みと喜びが凝縮された、今もなお多くの読者や観客を魅了し続ける名作です。

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