悪行要論

『悪行要論』（Compendium Maleficarum）は、17世紀のイタリア人修道士、フランチェスコ・マリア・グアッツォ（別名ガッツォ）によって著された、魔術と悪魔に関する重要な書物です。日本語では『蠱業要覧』とも呼ばれます。

本書は1608年にミラノで初めて出版され、当時のヨーロッパにおける悪魔学の知識を幅広く網羅しています。具体的には、悪魔の性質、魔女の活動、魔女が集会（サバト）で行われる儀式、交霊術の実践、そして様々な魔術の詳細などが解説されています。グアッツォは、これらのテーマについて、当時の教会や社会における認識を反映しながら、独自の視点を加えて論じています。

『悪行要論』の最大の特徴の一つは、30点を超える木版画による挿絵が豊富に用いられている点です。これらの挿絵は、悪魔や魔女の姿、サバトの様子などを視覚的に表現しており、当時の人々の想像力を刺激しました。今日でも、これらの図版は悪魔学関連の書籍や研究で頻繁に引用されており、視覚的な資料としての価値も有しています。

本書が出版された17世紀は、ヨーロッパ各地で魔女狩りが最も激しく行われた時代でした。『悪行要論』は、同時代のアンリ・ボゲやジャン・ボダンといった学者による著作とともに、魔女狩りを正当化し、その手続きを定めるためのテキストとして広く利用されました。魔女の存在を信じ、魔女の活動を危険視する当時の社会思潮を背景に、本書は魔女狩りの理論的な根拠を提供し、その実践に大きな影響を与えたと考えられています。

『悪行要論』は、単なる魔術書としてだけでなく、17世紀ヨーロッパ社会における宗教観、世界観、そして人々の恐怖や不安を理解するための貴重な資料としても評価されています。悪魔学、魔女狩り、そして近世ヨーロッパの社会文化に関心を持つ研究者にとって、重要な文献と言えるでしょう。

参考文献：
エミール・グリヨ・ド・ジヴリ著『悪魔の書』大陸書房
フレッド・ゲッティングス著『悪魔の辞典』青土社

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