ジャン・ボダン

ジャン・ボダンについて

ジャン・ボダン（Jean Bodin、1530年 - 1596年）は、フランスの著名な経済学者及び法学者であり、重商主義の基礎を築いたことで知られています。経済学における彼の最も重要な理論の一つが貨幣数量説です。この理論は、中世の二元的価値体系から脱却し、商品と貨幣を一元的に捉え直す試みでした。こうした視点は、彼が中世から近代への重要な転換点を形成する存在であると評価される所以でもあります。

彼の著作『国家論六編』または単に『国家論』は、1576年に発表され、「見えざる主権」という概念を提唱しました。この作品では、王権神授説を基にした近代的な主権論を展開し、中央集権国家の理論を形成しました。ボダンは国家の重要性を強調し、世俗の秩序を宗教よりも優先させる「ポリティーク」の思想を打ち出しました。これは、内戦の終結を宗教上の寛容によって達成しようとするものでした。

ポリティークの思想

ボダンは、サン・バルテルミの虐殺（1572年）を背景に『国家論』において、国家を「多くの家族と共通の事柄の主権的権力を持つ正しい統治」と定義しました。彼の視点では、家族は家父長に統治され、武力抗争を通じて勝者が主権者となります。勝者に従うことで形成される国民（citoyen）は、他人の主権に依存するものの、自由な臣民（sujet）としての地位を持つという、支配と被支配の構造を提示しました。

ボダンは、王権の権限を発展させ、「主権」という概念を確立しました。主権とは、国家内の支配者が持つ絶対的な権限であり、国家と一体的な存在です。彼は、宗教戦争を経た反省から、家庭や国家における主権の集中を強調し、主権の乱れは「暴君による悪政にも劣るアナーキー」を引き起こすと警告しました。

そのため、ボダンの主権概念は、支配者と被支配者の関係を強調するものであったため、決して民主主義的ではなかったものの、国家の世俗性や宗教の個人性を考慮した近代的な側面を持つとされています。

魔女狩りと批判

一方で、ボダンは魔女狩りを強く推進した人物としても名を馳せています。彼自身、裁判官として異端審問に関与し、多くの無実の人々を裁き、処刑することに加担しました。1580年には著書『悪魔憑き（デモノマニア）』を発表し、この本は長らく魔女狩りの指針となりました。このように、彼の政治的思想は、時に無実の人々の命を犠牲にしながらも、国家の安定を優先するものでした。ボダンは1596年にペストにより亡くなりましたが、彼の思想は今もなお、国家論や政治学において重要な位置を占めています。

参考文献

• - 柴田三千雄、樺山紘一、福井憲彦著『フランス史』 2巻（山川出版社、1996年）
• - 福田歓一著『政治学史』（東京大学出版会、1985年）
• - ロジャー・プライス著、河野肇訳『フランス革命とナポレオン帝国』（創土社、2008年）
• - ジャン・ボベロ著、私市正年、中村遥訳『世界のなかのライシテ—宗教と政治の関係史』（白水社、2014年）
• - 國分功一郎著『近代政治哲学』（筑摩書房、2015年）

このように、ジャン・ボダンはその時代の変革の中で、経済学と政治思想の両面から近代社会に多大な影響を与えた人物です。

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