悪魔が来りて笛を吹く

『悪魔が来りて笛を吹く』

概要

『悪魔が来りて笛を吹く』（あくまがきたりてふえをふく）は、日本の作家・横溝正史による長編推理小説で、金田一耕助シリーズの中でも特に人気が高い作品です。本作は1951年から1953年にかけて、探偵小説雑誌『宝石』で連載され、1954年には単行本として刊行されました。この小説は、戦後の混乱した社会背景を持つ中で、かつての貴族の没落とその暗い過去を描いたものです。

本作が発表された当初、横溝はこの作品に対して特に高い評価をしており、彼の自選ベスト10に選ぶほどの、充実した内容を誇っています。さらに、1954年には探偵作家クラブ賞にノミネートされ、作品の注目度を高めました。ストーリーは、原作が映画やテレビドラマ、さらにはラジオドラマや舞台でも多数アレンジされ、影丸穣也による漫画化も行われたことから、その影響の広がりも見逃せません。

物語の発端

本作の冒頭では、1947年1月、宝石店「天銀堂」で発生した実際の事件を模した「天銀堂事件」が描かれます。この事件では男が店員全員に毒を盛り、宝石を奪うという衝撃的な犯罪が発生しました。この背景を受けて物語が展開され、主人公の金田一耕助が事件の調査に乗り出すことになります。

作品のテーマと特徴

『悪魔が来りて笛を吹く』は、没落した貴族の家系とそこから生まれる愛憎劇をテーマにしています。恋愛や近親相姦というタブー視されるテーマを扱いながら、家族の崩壊や死という厳しい現実が描かれています。また、本作では密室殺人のトリックが使用されるなど、本格推理小説の枠組みがしっかりと設けられており、読者をスリリングな体験へと誘います。横溝は特に彼自身が得意とする田舎の因習や簡素な生活様式、そしてそれに対する対比を巧みに描写することで、物語に深みを加えています。

この小説のタイトルにもある笛の音は、物語の中で重要な役割を果たしており、フルートの演奏が作品の象徴的なモチーフになっています。この音が事件の解決の鍵を握ることになるため、読者の心に強烈な印象を残します。

主な登場人物

物語の中心には、探偵金田一耕助がいます。彼を取り巻く人物たちもまた、複雑な人間関係を持ち、物語を盛り上げます。美禰子とその父親である英輔、そして英輔の妻である秌子など、各登場人物が抱える悩みや秘密が物語を進行させる重要な要素となっており、それぞれが明るみに出ることで新たな展開が生まれます。

特に、金田一が家族のトラウマや過去の出来事に迫ることで、登場人物の心の葛藤やその状況からの解放を試みる様子が描かれ、物語の感情的な部分を深めています。

影響と評価

この作品は、多くの映画やテレビ劃、ラジオドラマ、舞台作品としても取り上げられており、特に1954年版の映画は評判を呼びました。作品全体が人々の心に残るのは、横溝の持つ独特の描写力とストーリーテリングの才能のおかげです。

結論

『悪魔が来りて笛を吹く』は、金田一耕助シリーズの渾身の一作であり、横溝正史の優れた作家としての資質を如実に示す作品です。愛憎が絡み合い、さらなる謎が展開する中で、読者は魅了されることでしょう。横溝の作品はただのミステリーではなく、人間の深層に触れる物語として、今後も多くの人々に読み継がれることは間違いありません。

もう一度検索