意志の勝利

意志の勝利：ナチス・プロパガンダ映画の光と影

1934年、レニ・リーフェンシュタール監督によって制作された記録映画『意志の勝利』（Triumph des Willens）は、ナチス政権のプロパガンダ映画として、その圧倒的な映像美と演出で知られています。同年9月、ニュルンベルクで開催されたナチ党大会を記録した本作は、16台のカメラと100名以上のスタッフを動員した大規模なプロジェクトであり、60時間に及ぶ撮影が行われました。モノクローム、モノラル音声のトーキー映画として制作され、公開当時としては非常に高度な技術が用いられています。

ヒトラーとリーフェンシュタール：創作と葛藤

本作の監督を依頼したのは、アドルフ・ヒトラー自身でした。リーフェンシュタール監督の前作『青の光』に感銘を受けたヒトラーは、彼女に党大会の記録映画制作を依頼したとされています。しかし、リーフェンシュタール自身の自伝によると、当初はゲッベルスの嫉妬や、映画のタイトルの仰々しさから依頼を断ったとのことです。しかし、ヒトラーの熱意と、制作内容に関する自由度の高さから、最終的には監督を引き受けることになります。ただし、彼女は既に前年に党大会を題材にした映画『信念の勝利』を制作しており、自伝の内容には正確性に欠ける部分もあると指摘されています。

映像技術と演出：高揚感と圧倒的な演出

リーフェンシュタール監督は、『意志の勝利』において、数々の革新的な映像技術と演出を用いています。ヒトラーの演説シーンでは、半円形のレールを用いてカメラを移動させ、様々な角度から被写体を捉えながらも、見る者の高揚感を維持することに成功しています。また、群衆の一人をクローズアップすることで、見る者自身もその一部であるかのような臨場感を生み出しています。さらに、映画冒頭でヒトラーの飛行機の到着シーンを配置することで、ヒトラーをまるで神のような存在として描いています。

突撃隊員たちのスポーツや共同生活の様子は明るいトーンで描かれており、後の作品『オリンピア』につながる要素も見られます。整然とした行進や隊列の美しさも、本作の特徴と言えるでしょう。後半の閲兵行進シーンでは、突撃隊から親衛隊へと移り変わる様子が力強く描かれ、特に親衛隊全国指導者ヒムラー率いる親衛隊の行進、そして「SS・アドルフ・ヒトラー身辺護衛連隊」の行進は、圧巻です。

撮影と編集：困難と葛藤

若い女性監督であり、ナチ党員ではなかったリーフェンシュタールは、党幹部から反感を買い、撮影現場ではカメラマンを突き飛ばしたり、脚立を倒したりするなどの妨害行為もあったと伝えられています。「長いナイフの夜」事件で粛清された突撃隊員たちも、党への不満から撮影を妨害したとされています。編集段階でも、映画に映っていない党幹部からクレームがつき、リーフェンシュタールはヒトラーの怒りを買ってまで、彼らの写真を追加することを拒否したというエピソードも残っています。

作品の評価：賛否両論と歴史的評価

『意志の勝利』は公開後、ドイツ国内で記録的な動員数を達成し、ナチスの党勢拡大に貢献しました。しかし、その動員には料金割引や学校、職場での半強制的な上映も含まれており、上映期間はわずか3日間でした。一方で、その映像美は海外でも高く評価され、ヴェネツィア・ビエンナーレやパリ万博で賞を受賞しています。しかし、第二次世界大戦後は評価が一転し、リーフェンシュタール監督はナチズムへの協力者として訴追されました。無罪となった後も批判は続き、名誉毀損で訴訟を起こす事態となりました。

現在では、社会への影響、表象文化論の観点から、映画史に残る問題作として評価されています。リーフェンシュタール自身は「政治には全く興味がなく、美だけに関心があった」と主張していますが、彼女の作品がナチス政権の宣伝に利用されたことは事実です。

上映と入手可能性

ドイツでは法律により一般上映は禁止されています。教育目的での上映には、事前に説明と注意喚起が必要とされています。アメリカでは英語字幕付きのDVDが発売されており、日本でも過去にリバイバル上映やDVDリリースが行われています。戦後公開されたものには、ナチス・ドイツの残虐行為に関する注釈が加えられています。

映画の内容：3日間を演出された構成

映画は、大会前日と3日間の様子を描いているように見えますが、実際の党大会は6日間開催されました。映画は実際の時間順序を無視し、3日間の出来事として再構成されています。ヒトラーの飛行機到着シーンから始まり、党大会の開会式、各地の組織や部隊の点呼、分列式、閉会式などが、ワーグナー風音楽やナチス歌謡を背景に、壮大なスケールで描かれています。これらのシーンには、ヒトラーの演説や、各地からの参加者たちの熱狂的な姿、そして整然とした行進などが含まれており、ナチス政権の力を印象付けるものとなっています。

著作権

日本では1942年に公開された本作の著作権は、レニ・リーフェンシュタールが2003年に亡くなったため、日本国内では2041年末まで保護される可能性があります。

『意志の勝利』は、その映像美と演出技術は高く評価される一方で、ナチス政権のプロパガンダとして利用された歴史的背景と、その複雑な評価は、映画史において重要な議論の対象であり続けています。

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