長いナイフの夜

長いナイフの夜（Nacht der langen Messer）

長いナイフの夜は、1934年6月30日から7月2日にかけて、国民社会主義ドイツ労働者党（ナチ党）が行った突撃隊（SA）に対する大規模な粛清事件である。この粛清は、正式な法的手続きを経ることなく実行され、エルンスト・レームをはじめ、多くの党員や政治家が殺害された。他にも、反ナチ派の著名人や無関係な人物たちも私怨や権力闘争の犠牲となった。公式発表によれば、77人が死亡したとされるが、実際の死亡者の数は116名に上り、亡命者の中には千人以上の犠牲者が出たとの主張もある。

背景

ナチス政権の初期、突撃隊はナチ党の私兵的役割を果たし、政権掌握後も権力を拡大し続けていた。1933年には、突撃隊の総員数は400万人を超え、その中で武装兵士は50万人に達した。しかし、党内の権力闘争が深まる中、エルンスト・レームが党内での発言権を高め、独自の軍隊構想を持つことで、ヒトラーや軍部との対立が顕在化していった。

レームは「第二革命」と称して、軍部や右翼勢力に対抗する姿勢を明らかにし、これにヒトラーはついに強い懸念を抱くようになった。また、彼を監視していたゲシュタポもレームの動向を逐一ヒトラーに報告し、その反抗的な行動はヒトラーの信頼を揺るがす要因となった。このように、レームが突撃隊において反乱を起こす可能性があるとの噂が広がる中で、ヒトラーは本格的な粛清を決意することになる。

突撃隊と軍部の争い

エルンスト・レームの理想とする国民軍の形成は、旧来の正規軍に対する根本的な対立を生み出した。突撃隊の勢力は拡大していったが、国軍はこれを警戒しつつも、利用しようと考えていた。しかし、レームが兵力と指揮権の独立を主張したことで、両者の間に亀裂が生じていった。

ヒトラーは突撃隊と国軍の和解を模索したが、レームや突撃隊が引き続き軍部に敵意を示す姿勢は変わらなかった。対立は次第に深刻化し、ついにヒトラーは粛清の決断を下すこととなった。

親衛隊の思惑

親衛隊（SS）は、突撃隊のエルンスト・レームを攻撃し、自らの権力を強化すべく、粛清の計画を練り始めた。ゲーリングやヒムラーがレームへの陰謀を巡らす中、突撃隊の政治的影響力を排除することが彼らの重要な目標となり、最終的にはヒトラーを後ろ盾に据えて行動を起こすことになった。

事件の展開

1934年6月、突撃隊の反乱の噂が広まり、パウル・フォン・ヒンデンブルク大統領は、ヒトラーが処置を行わない場合には戒厳令を布告する意向を示した。ヒトラーはこの威圧を受け、ついに突撃隊の粛清を決意する。6月29日、ヒトラーはエルンスト・レームを逮捕する決定を下し、国防軍に対し警戒態勢を整えさせた。

6月30日、ヒトラーはまずミュンヘンに向かい、突撃隊幹部を次々と逮捕し、シュターデルハイムに収監されたレームを含む多くの突撃隊員がその場で処刑される運命に見舞われる。ヒトラーが「裏切り者」と告げる中で、レームは逮捕され、その後処刑されることになる。

事件の影響

この事件により、ナチ党内部の抗争は一掃され、国軍はナチ党への完全な協力を約束するようになった。突撃隊は名実ともに弱体化し、ヒトラーの独裁体制は一層の確固たるものとなった。しかし、国軍内には反発の声があがり、将校たちの不満が露わになる場面も見られた。これにより、ナチ党内の勢力図も大きく変化し、各組織間の対立は今後の歴史に影響を及ぼすことになる。

国外の反応

国外では、長いナイフの夜に対する非難の声が高まった。特に欧米諸国は、この行為をヒトラー政権の不安定さの表れと捉え、反ナチ派が台頭する兆しと見なした。特異なことにソ連のスターリンはこの行為を評価し、ヒトラーにとって権力が強化される契機となったとみなした。

結論

この事件は、ナチス政権の恐怖政治の始まりと不安定な権力構造を象徴する出来事となった。長いナイフの夜は、ヒトラーが自身の権力を確立するために犠牲者を生む冷酷な手段であったと言える。

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