愚かなり我が心

『愚かなり我が心』（原題：My Foolish Heart）は、1949年にアメリカで公開された恋愛映画です。J・D・サリンジャーの短編小説『コネティカットのひょこひょこおじさん』を原作とし、古典的なメロドラマの要素を持つ作品として知られています。

主人公は、結婚生活に倦み、アルコールに依存する傾向のある女性、エロイーズです。彼女は、かつて深く愛した男性ウォルトとの思い出に心を奪われ、現在の生活に満たされず苦悩しています。物語は、彼女の親友メリー・ジェーンの訪問を通して、エロイーズの心の内面を丁寧に描き出していきます。過去と現在を行き来するエロイーズの回想シーンは、彼女が抱える葛藤と、失われた愛への未練を鮮やかに表現しています。

本作で主演を務めたのは、ハリウッドを代表する女優の一人、スーザン・ヘイワードです。彼女の繊細かつ力強い演技は、エロイーズという複雑な女性の心情を見事に体現し、本作を彼女の代表作の一つに押し上げました。共演には、ダナ・アンドリュース、ロイス・ウィーラーなど、実力派俳優が名を連ねています。

映画音楽も大きな魅力の一つです。ヴィクター・ヤングとネッド・ワシントンが作曲・作詞を手掛けた主題歌「My Foolish Heart」は、マーシャ・ミアーズの歌唱で知られ、ジャズのスタンダードナンバーとして現在も愛されています。ビリー・エクスタインなど多くのジャズ歌手がカバーし、日本でもジャズ歌手たちによって歌われたことで広く親しまれました。この主題歌が、日本での映画公開に繋がったという興味深いエピソードも残されています。ビル・エヴァンスによる演奏バージョンも有名で、トニー・ベネット、カーメン・マクレー、メル・トーメといった著名な歌手によるカバーも多く存在します。

アカデミー賞にもノミネートされ、スーザン・ヘイワードは主演女優賞、ヴィクター・ヤングとネッド・ワシントンは主題歌賞にノミネートされました。しかしながら、原作小説の作者であるサリンジャーは、この映画化に強い不満を示したと伝えられています。その結果、彼の代表作である『ライ麦畑でつかまえて』など、他の作品は映画化されることはありませんでした。

『愚かなり我が心』は、恋愛映画としての魅力だけでなく、サリンジャーという巨匠作家との関わり、そしてジャズ史に残る名曲との結びつきなど、様々な側面から興味深い作品と言えます。メロドラマとしての完成度の高さ、名優たちの熱演、そして不朽の名曲という三拍子が揃った、忘れがたい映画体験を提供してくれるでしょう。時代を超えて愛されるこの作品は、今もなお多くの観客を魅了し続けています。

もう一度検索