愛しの座敷わらし

『愛しの座敷わらし』は、荻原浩による日本の小説で、2007年に朝日新聞夕刊に連載されました。その後、単行本、文庫本として出版され、2012年には絵本化、映画化もされています。この物語は、東京から岩手県の古い民家に引っ越してきた高橋一家と、その家に住み着いていた座敷わらしとの交流を中心に展開します。

物語の舞台は、父親の転勤で東京から岩手県の古民家に引っ越した高橋一家です。東京での生活に慣れていた一家は、新しい生活に戸惑いを感じています。父親の晃一は、食品メーカーの課長として働きながらも、家族とのコミュニケーションがうまくいかず、東京から盛岡支店への異動という形で、半ば左遷のような形で一家は岩手へ引っ越します。妻の史子は、慣れない田舎暮らしに不満を抱え、長女の梓美は転校先の学校生活に不安を感じています。長男の智也は、喘息の持病を抱えながらもサッカーが大好きですが、思うようにプレーできません。

そんな中、高橋家では不思議な出来事が起こり始めます。誰もいないはずの場所で物音が聞こえたり、囲炉裏の自在鉤が勝手に動いたり、手鏡に知らない子供が映ったりします。これらの現象は、この家に住み着いていた座敷わらしの仕業でした。最初は戸惑っていた家族も、次第に座敷わらしの存在を受け入れ、奇妙な共同生活が始まります。座敷わらしとの触れ合いを通して、家族は少しずつ絆を取り戻し、それぞれの問題に向き合っていくことになります。

小説は、2007年1月31日から11月19日まで朝日新聞夕刊で連載されました。2008年6月には、第139回直木三十五賞の候補作品に選ばれましたが、受賞には至りませんでした。しかし、その魅力的なストーリーは多くの読者を魅了し、様々な形でメディア展開されることとなります。

2012年には、『ここにいるよ ざしきわらし』という題で絵本化されました。絵本はA5判上製本で、荻原浩が文を、いぬんこが絵を担当しました。この絵本は、子供たちにも座敷わらしの魅力を伝えるきっかけとなりました。

同じく2012年には、『HOME 愛しの座敷わらし』として映画化されました。水谷豊が主演を務め、安田成美、橋本愛、濱田龍臣、草笛光子らが出演しました。映画では、高橋一家が古民家での生活を通して、家族の絆を取り戻していく姿が描かれています。映画は岩手県を中心にロケが行われ、地域の人々の協力も得ながら制作されました。

映画の公開前には、岩手県盛岡市や山形県で先行試写会が行われ、公開後には全国縦断リレー舞台挨拶も行われました。また、ロケ地の一つである岩手県花巻市では凱旋上映会も開催され、地域を盛り上げました。映画は、原作の持つ温かさをそのままに、美しい映像と心に響く音楽によって、多くの観客を感動させました。

映画のキャストには、水谷豊が父親の晃一役、安田成美が母親の史子役、橋本愛が長女の梓美役、濱田龍臣が長男の智也役、草笛光子が晃一の母親である澄代役を演じました。また、座敷わらし役には岡部珠奈が起用されました。その他にも、沢木ルカ、飯島直子、草村礼子など、多くの実力派俳優が出演しました。

監督は和泉聖治、脚本は金子成人、音楽は池頼広と、豪華なスタッフによって制作されました。映画のロケ地には、遠野ふるさと村や岩手山、岩手銀行中ノ橋支店などが使用され、岩手の美しい風景が物語を彩りました。

『愛しの座敷わらし』は、小説、絵本、映画と様々な形で展開され、多くの人々に愛され続けています。この物語は、家族の絆、地方での暮らし、そして不思議な座敷わらしとの交流を通して、人の心の温かさを描いています。現代社会で忘れがちな大切なものを思い出させてくれる、心温まる物語です。

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