愛と幻想のファシズム

愛と幻想のファシズム

村上龍の小説『愛と幻想のファシズム』は、1984年から1986年にかけて「週刊現代」に連載され、1987年に講談社から単行本が出版された政治経済小説です。世界経済の混乱と、それを利用して台頭する政治結社を描き出しています。

あらすじ

主人公の鈴原冬二（トウジ）は、カナダで狩猟生活を送っていましたが、帰国前にアラスカで相田剣介（ゼロ）という男に出会います。ゼロに誘われ日本に帰国したトウジは、独自のカリスマ性と狩猟原理に基づいた思想で人々を魅了し、政治結社「狩猟社」を立ち上げます。

狩猟社は、過激なCM戦略と、社会不安を背景に急速に支持を拡大。トウジは、自衛隊にクーデターを起こさせ、その混乱の中で米ソの陰謀を暴露。総選挙で革新政権を誕生させますが、それは更なる混乱を招き、結果的にトウジと狩猟社だけが国民の希望の星となります。

イスラエルとの秘密協定で核兵器を手に入れ、ハッカーによる情報操作でアメリカを牽制。最終的に、日本は米ソと対等の地位を確立し、世界から一目置かれる存在となります。

登場人物

鈴原冬二（トウジ）: 主人公。狩猟社の党首であり、カリスマ的な存在。弱肉強食の狩猟原理を説き、人々を惹きつけます。
相田剣介（ゼロ）: インディーズ映画監督。トウジを世に送り出すきっかけを作ります。狩猟社の参謀として活躍しますが、組織がシステムに組み込まれていくことに絶望します。
千屋裕之: 狩猟社の幹部。極左思想を持ち、経済学から生物学まで幅広い知識を持ちます。
洞木紘一: 狩猟社の幹部。新右翼。冷静沈着な頭脳で狩猟社の行動計画を立案します。
山岸良治: トウジの剣となる少年。武装集団「クロマニヨン」のリーダー。高い戦闘能力とカリスマ性を持ちます。
高榎通孝: 大蔵省の官僚。狩猟社のシンパであり、各省庁に支持者を増やします。
片山敏治: 精神病院院長。トウジの計画に協力し、薬物を供給します。
ジェローム・ウィッツ: 多国籍企業集団「ザ・セブン」の実質的な総帥。
トマス・ウインチェル: ザ・セブンの日本支部長。
フルーツ: 調香師。ゼロの恋人であり、後にトウジとも関係を持ちます。
時田史郎: 実業家。狩猟社のスポンサーとなりますが、後に廃人にされます。
万田正臣: 社会新党委員長。革新政権の首相となりますが、同様に廃人にされます。

用語解説

狩猟社: トウジが率いる政治結社。狩猟原理に基づいたファシスト集団です。
クロマニヨン: 狩猟社の武装行動部隊。山岸良治がリーダーを務めます。
* ザ・セブン: 世界恐慌時に結成された巨大企業グループ。世界経済を裏で操ります。

作品の背景

『愛と幻想のファシズム』は、1980年代の社会不安と政治状況を反映した作品であり、村上龍の思想が色濃く反映されています。また、新世紀エヴァンゲリオンの登場人物名に、本作から由来するものが多数存在します。

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