愛と精霊の家

『愛と精霊の家』（The House of The Spirits）

1993年に製作されたドラマ映画『愛と精霊の家』は、ドイツ、デンマーク、ポルトガルの国際共同製作作品です。監督はビレ・アウグストが務め、豪華な国際色豊かなキャストが出演しています。原作は、チリ出身の著名な作家イサベル・アジェンデによる同名のベストセラー小説『精霊たちの家』。南米某国、モデルとされるのは作者の母国チリの激動の時代を背景に、ある富農一家であるデル・バレ家とトルエバ家の約50年にわたる年代記を壮大なスケールで描いています。

物語は1928年から始まります。裕福な地主であるデル・バレ家の長女ローザは、美しい容姿を持ち、エステバン・トルエバという青年と婚約していました。しかし、政治的な陰謀に巻き込まれた父セベロの身代わりとなり、毒殺されるという悲劇に見舞われます。この出来事は家族に深い傷を残し、特に末娘のクララに大きな影響を与えます。クララは未来を予知するなどの神秘的な能力を持っていましたが、姉の死を予知しながら救えなかったショックから、心を閉ざし言葉を発さなくなってしまいます。

一方、婚約者を失ったエステバンは、失意の中から立ち直り、権力の追求にその全てを捧げるようになります。20年間働き詰め、大農場を築き上げた彼は、故郷に戻り、成長したクララと再会します。クララの持つ不思議な魅力に惹かれたエステバンは彼女と結婚し、自身の姉フェルラと共に屋敷で暮らし始めます。クララはエステバンの激しい気性を受け入れつつ、家庭を築いていきます。やがて娘ブランカを授かり、エステバンは保守党の議員として政界に進出しますが、その独善的な性格は次第に強まっていきます。

家族内の緊張が高まる中、娘ブランカが農園労働者の息子ペドロと密かに愛を育んでいたことを知ったエステバンは激怒します。階級の違いを認められない彼は、ブランカにヨーロッパの胡散臭い貴族との結婚を強要するなど、強権的な態度で娘の幸せを妨げようとします。また、献身的に仕えていた姉フェルラをも屋敷から追い出してしまうなど、エステバンの内面的な歪みは家族関係を破壊していきます。

クララの死後、南米某国は政治的に不安定化し、時代は激動の様相を呈し始めます。軍部がクーデターを起こし、実権を掌握する事態となります。そんな混乱の中、ブランカはかつての恋人ペドロと再会します。しかし、ペドロは反政府組織のリーダーとなっており、そのためにブランカも軍事政権に逮捕され、ペドロの居場所を白状させるための拷問を受けることになります。

絶体絶命の状況下、頑なだったエステバンは娘を救うために奔走します。彼の尽力により、ペドロは国外へ脱出、ブランカも釈放されます。幾多の困難を乗り越え、命の危機に瀕したことで、親娘の間にはようやく互いを理解し、許し合う絆が生まれるのでした。一家の歴史は、国の歴史と密接に絡み合い、愛、憎しみ、政治、そして超常的な要素が織り交ぜられた物語がクライマックスを迎えます。

本作は、クララ役をメリル・ストリープ、エステバン役をジェレミー・アイアンズが演じるほか、ウィノナ・ライダー（ブランカ）、アントニオ・バンデラス（ペドロ）、グレン・クローズ（フェルラ）、ヴァネッサ・レッドグレイヴ（ニベア・デル・バレ）といった国際的なスター俳優が顔を揃え、その豪華なキャストが話題となりました。

映画はドイツ国内外の映画賞でいくつかの賞を受賞しましたが、批評家の間では概して厳しい評価が下されました。特に有名な批評サイトRotten Tomatoesでは、38件の評論に基づく平均点が10点満点中4.8点と低く、批評家の一致した見解としては、「うらやましいほどの豪華俳優陣」であるにもかかわらず「全て嘆かわしいほどにミスキャスト」であり、「充分な魔法やリアリズムに乏しい摩訶不思議なリアリズムの退屈なサーガになっている」と評されるなど、原作の持つ壮大な世界観や登場人物の内面描写が十分に描ききれていないという指摘が多く見られました。豪華な外見とは裏腹に、作品の深みやリアリティが不足していると感じる批評家が多かったようです。しかし、一家の年代記という形式で描かれる人間の複雑な感情や歴史の波に翻弄される運命は、観る者に強い印象を残します。

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