愛の世紀

ジャン＝リュック・ゴダール監督による長編劇映画『愛の世紀』（2001年）は、フランスとスイス合作で制作された作品です。この映画は、「現在」を白黒フィルムで、「2年前の回想」をカラーのHDカムで撮影するという、ユニークな手法が用いられています。これは、共同製作会社の一つであるテレヴィジオン・スイス・ロマンドが、本作の完成した2001年にデジタル放送を導入したという事実と密接に関係しています。

『愛の世紀』は、愛の4つの瞬間、すなわち「出会い」「性的交流」「別れ」「和解」をテーマとしています。物語は、現代のパリを舞台に、芸術家エドガールが愛を描く構想を練るところから始まります。彼は、清掃の仕事をしつつ子供を育てる、生真面目な女性「彼女」を主演にしたいと考えています。しかし「彼女」は、エドガールの依頼を簡単に受け入れるわけではありません。エドガールは様々な困難を乗り越え、構想を実現しようとしますが、やがて「彼女」の死を知る事になります。

映画の後半は、2年前のブルターニュでの出来事を回想する構成となっています。当時、エドガールは第二次世界大戦時のレジスタンスに関する研究を行っており、ある歴史家の元を訪れていました。そこで彼は、ハリウッドの映画会社とアメリカ国務省の役人が、かつてレジスタンス運動に参加していた老夫婦に、回想録の映画化権を交渉している場面を目撃します。その交渉の窓口として契約書を精査していたのが、老夫婦の孫娘であり、後の「彼女」だったのです。エドガールは、再びパリへと戻ってきます。

『愛の世紀』には、数々の著名な俳優が出演しています。レジスタンスの闘士を演じたジャン・ダヴィは、本作の公開前に亡くなっており、遺作となりました。他に、ジガ・ヴェルトフ集団のメンバーであるジャン＝アンリ・ロジェ、ヌーヴェルヴァーグ初期の代表作『ある夏の記録』に出演したマルセリーヌ・ロリダン＝イヴェンスなど、映画史に名を残す人々が脇を固めています。

ゴダール監督独特の映像表現、そして複雑で重層的な物語は、観客に多くの問いかけを投げかけます。単なるラブストーリーとしてだけではなく、歴史、記憶、そして愛の儚さといった、様々なテーマが複雑に絡み合っています。

『愛の世紀』は、2001年5月15日にカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、ワールドプレミア上映されました。その後も、バリャドリッド国際映画祭審査員特別賞、ファジュル映画祭水晶のシームルグ賞など、数々の国際映画祭で賞を受賞、または上映されました。これらの受賞歴、そして豪華な出演陣、革新的な映像表現は、この映画をゴダール監督の代表作の一つとして位置づけています。デジタル技術の導入という時代背景、そして撮影中に亡くなった俳優の存在も、この映画に独特の深みを与えていると言えるでしょう。

『愛の世紀』は、単なる恋愛映画の枠を超えた、ゴダール監督の思想と芸術性を凝縮した、挑戦的な作品と言えるでしょう。その独特の映像表現と複雑な物語は、観客に深い印象を与え、長く記憶に残る作品となっています。

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