愛の寓意 (ヴェロネーゼ)

パオロ・ヴェロネーゼの連作『愛の寓意』

パオロ・ヴェロネーゼが1575年頃に制作した『愛の寓意』は、4点の寓意画からなる連作です。これらの絵画は、愛の試練と報酬をテーマにしていると考えられていますが、その正確な意味は未だに解明されていません。各作品は、『不貞』、『侮蔑』、『尊重』、『幸福なる合一』と名付けられていますが、これらのタイトルは後世に付けられたものであり、オリジナルではありません。

作品構成と特徴

連作は、いずれもローアングルから見上げるように描かれており、天井画として制作されたことが伺えます。人物の足が切れている構図も特徴的で、これは天井に設置された際に最適に見えるように計算されたものです。連作は対角線を形成するように配置されており、相互に関連性を示唆していますが、特定の鑑賞順序や明確な物語展開は存在しません。発注者は不明ですが、ヴェネツィアの裕福な貴族である可能性が高いと考えられています。

制作の意図としては、宮殿の夫婦の部屋を飾るため、つまり、夫と妻の寝室と控室の天井を飾る目的で制作されたと考えられています。これは、4作品に同じ方向から光が当たっていることから推測されます。連作は『不貞』と『幸福なる合一』、『侮蔑』と『尊重』の2組に分割され、それぞれが対作品として機能していると考えられます。

各作品の詳細

『不貞』

『不貞』では、裸の女性が背を向けて岩の上に座っており、両側には2人の男性がいます。一人の男性は女性の右手を取っていますが、女性の顔はもう一人の若い男性の方を向いています。女性は密かに若い男性と手紙を交換しており、不貞の状況を描いています。この場面は、愛情の対象が定まらない女性の姿を象徴的に表現していると考えられます。

『侮蔑』

『侮蔑』は、連作の中で最も解釈が難しい作品です。裸の男性像が古代建築の廃墟に横たわっており、キューピッドが男性を弓で打っています。この場面は、快楽主義的な性欲に対する非難を表していると解釈されます。画面右端には、貞節を象徴するシロテンを持った女性と、連れ去られようとしている裸の女性が描かれており、愛における天上の愛と地上の愛の対立を示唆しているとも考えられます。

『尊重』

『尊重』では、キューピッドが男性の剣を眠る女性に向け、性的な誘惑と自制心をテーマにしています。男性の苦悩に満ちた表情は、誘惑に抵抗する葛藤を示しています。アーチ状の天井には「スキピオの禁欲」を描いたモザイクがあり、この物語が意味する道徳的な教訓と関連づけられます。

『幸福なる合一』

『幸福なる合一』では、夫婦が石の球体の上に座る裸の女性と少年に祝福されています。この場面は、夫婦の結合が幸福な結婚生活に結びつくことを表しています。裸の女性はヴィーナスまたは運命の女神フォルトゥーナと解釈され、夫婦の平和と繁栄を象徴しています。

来歴と素描

連作は、17世紀には神聖ローマ皇帝ルドルフ2世のコレクションとなり、その後、スウェーデン女王クリスティーナやオルレアン公フィリップ1世のコレクションを経て、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。メトロポリタン美術館には、連作の準備習作が所蔵されており、ヴェロネーゼが連作を制作するにあたり、人物像を様々な角度から研究していたことが伺えます。

ギャラリー

(ダーンリー伯爵家が所蔵した絵画の画像とキャプションを省略)

まとめ

パオロ・ヴェロネーゼの『愛の寓意』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する作品の一つであり、愛の複雑さをテーマにした寓意画として、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
Charles Fitzroy, The Rape of Europa: The Intriguing History of Titian's Masterpiece, 2015.

外部リンク

ナショナル・ギャラリー公式サイト, パオロ・ヴェロネーゼ『不貞』
ナショナル・ギャラリー公式サイト, パオロ・ヴェロネーゼ『侮蔑』
ナショナル・ギャラリー公式サイト, パオロ・ヴェロネーゼ『尊重』
ナショナル・ギャラリー公式サイト, パオロ・ヴェロネーゼ『幸福なる合一』
* メトロポリタン美術館公式サイト, パオロ・ヴェロネーゼ『愛の寓意の習作』

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