愛宕山鉄道

愛宕山鉄道：幻の登山鉄道の軌跡

京都の嵐山から愛宕山へと至る登山鉄道、愛宕山鉄道。その名は、多くの鉄道ファンにとって、伝説として語り継がれているかもしれません。第二次世界大戦前、京阪電気[[鉄道]]と京都電燈という当時を代表する企業の共同出資によって建設されたこの鉄道は、平坦な路線と急勾配を登るケーブルカーという、ユニークな構成を持っていました。

愛宕山への信仰と観光開発

愛宕山は古くから愛宕神社が鎮座する霊山として知られ、多くの参拝客が訪れていました。愛宕山鉄道は、そうした参拝客の利便性を高めることを目的として建設されましたが、同時に、山麓や山上に観光施設を整備することで、新たな観光ルートの創出も目指していました。

実際、鉄道の開業と同時に、清滝遊園地や愛宕山遊園地が建設され、ホテルや飛行塔といったレジャー施設も充実。スキー場やキャンプ場なども整備され、愛宕山は一大観光地として賑わいを見せました。これらの観光開発は、鉄道事業の成功に大きく貢献していたと言えるでしょう。

世界恐慌と戦争による廃線

しかし、好景気は長くは続きませんでした。世界恐慌の影響を受け、愛宕山鉄道の経営は次第に悪化。京阪電気[[鉄道]]と京都電燈による再建策も講じられましたが、その効果は限定的でした。そして、第二次世界大戦の勃発。戦時体制下において、愛宕山鉄道は不要不急線に指定され、路線の鉄軌条は軍需物資として供出されることとなります。

1944年、平坦線と鋼索線は相次いで廃止されました。山上のホテルや遊園地などの観光施設も閉鎖され、それらはそのまま放置され、自然へと還っていきました。戦後、親会社である京阪神急行電鉄や京福電気[[鉄道]]による再建の申し入れもありましたが、戦後復興に追われていた両社は支援できず、愛宕山鉄道は1959年に解散。愛宕山のリゾート地としての夢は、完全に消え去りました。

技術的特徴と運行状況

愛宕山鉄道は、平坦線と鋼索線の二つの路線から構成されていました。平坦線は嵐山駅から清滝駅までを結ぶ3.39kmの路線で、標準軌（1435mm）を採用。全線電化され、京都電燈からの電力供給を受けていました。一方、鋼索線は清滝川駅から愛宕山山頂の愛宕駅までを結ぶ2.13kmのケーブルカー路線で、高低差638.83mを一気に駆け上がりました。

運行状況は、平坦線が終日20分間隔、鋼索線が15分から30分間隔で運行され、千日参りの時期には臨時便も運行されていたようです。所要時間は両路線とも11分と、当時の技術水準としては効率的な運行体制が敷かれていたことが伺えます。

廃線後の現状と記録

廃線後、平坦線の跡地は道路に転用され、現在では京都バスの路線が走っています。清滝トンネルは片側交互通行の道路として残存し、その姿はかつての鉄道の面影を伝えています。一方、鋼索線の遺構は、一部が崩壊しつつも残っており、愛宕駅舎やトンネル、橋梁などの構造物が、当時の技術力の高さや、時間の流れを感じさせてくれます。現在も、一部区間は愛宕神社への登山道として利用されていますが、危険な箇所もあるため、通行には注意が必要です。

愛宕山鉄道に関する記録は、写真や文献を通してわずかに残されていますが、その多くは断片的な情報です。しかし、それらの記録は、かつて存在した華やかなリゾート地とその歴史を、私たちに伝えてくれる貴重なものです。愛宕山鉄道は、歴史の中に消え去った幻の鉄道ですが、その存在は、日本の鉄道史、そして観光史における重要な一ページを刻んでいると言えるでしょう。

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