愛宕索道

愛宕索道：九州初のロープウェイ、そしてその短い歴史

福岡市西区に位置する愛宕山。その山頂に鎮座する鷲尾愛宕神社へのアクセス手段として、かつて愛宕索道が存在しました。1928年（昭和3年）に開業したこの索道は、九州で最初の旅客用索道であり、全国でも2番目に古い歴史を持つロープウェイとして、その存在は福岡の歴史に独特の色彩を添えています。

開業から戦争による廃止まで

愛宕索道の建設は、地元の旅館主や豪商ら有志の尽力によって実現しました。愛宕神社への参拝客増加を目的としたこの事業は、当時としては画期的なものであり、その珍しさから多くの利用客を集めました。経営は当初有志によって行われましたが、その後は豪商の一人である西山氏の遺族へと引き継がれていました。しかし、第二次世界大戦の勃発によって状況は一変します。従業員の徴兵、機材の供出、そして1943年（昭和18年）には不要不急線に指定され、愛宕索道は廃止、設備は供出されることとなりました。わずか15年の歴史に幕を閉じました。

わずか131メートルの航路

国道202号沿いの乗車場（現在の福岡市西区愛宕2丁目付近）から愛宕山の山頂駅までを結ぶ愛宕索道の全長はわずか131メートル、高低差は60メートルでした。定員8名の箱型車両が2両運行され、山頂まで約2分、運賃は片道2銭という小規模なものでした。それでも、当時としては最新鋭の技術が導入されており、日本の旅客索道において初めて支索1本・曳索2本の3線交走式を採用していました。この設備は大阪工務所によって製造されました。興味深いことに、ロープウェイであるにも関わらず、新聞報道や地図上では「ケーブルカー」と呼ばれ、看板にも「アタゴノケーブルカー」の文字が記されていたようです。

現在に残る痕跡

愛宕索道は姿を消しましたが、その存在は完全に忘れ去られたわけではありません。1998年（平成10年）、愛宕神社によって案内板が設置され、愛宕索道の歴史が伝えられるようになりました。さらに、2017年（平成29年）には、山上駅の遺構が発見され、新たな案内板が設置されるなど、近年になってその歴史的価値が見直されています。これらの遺構は、かつて存在した愛宕索道の面影を今に伝えています。

まとめ

愛宕索道は、短いながらも九州におけるロープウェイの歴史において重要な位置を占める存在でした。その技術的特徴や、ケーブルカーという愛称など、独特の魅力を持っていたこの索道は、戦争によってその短い歴史に幕を閉じましたが、残された遺構や記録を通して、その存在は今も人々の記憶に刻まれています。わずかな期間しか運行されませんでしたが、当時の技術や人々の生活を知る上で貴重な史料となっています。現代の高度な技術を持つロープウェイとは異なる、その簡素ながらも画期的なシステムは、技術史の上でも注目に値するでしょう。今後、愛宕索道の歴史がさらに研究され、広く知られるようになることを期待したいところです。

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