慶雲館

慶雲館：明治の息吹と近代庭園の融合

滋賀県長浜市港町に佇む慶雲館は、明治天皇の行在所として1887年に建設された迎賓館です。実業家・浅見又蔵の私費によって建てられ、当時の総理大臣、伊藤博文が命名したと伝えられています。

明治天皇と急造の迎賓館

慶雲館の建設は、明治天皇が京都で行われた孝明天皇御式年祭への行幸に際して、長浜での鉄道乗り換えの際に休憩できる場所がなかったことから始まりました。浅見又蔵は、自らの所有地である大通寺別殿跡地に、わずか数ヶ月で迎賓館を建設したのです。明治天皇・昭憲皇太后夫妻は、建設が完全に終わらないまま、長浜に到着。慶雲館で昼食と休憩をとった後、名古屋へと向かわれました。このエピソードは、慶雲館の建設に込められた急迫感と、浅見又蔵の決断の早さを物語っています。

近代日本庭園の金字塔：小川治兵衛の作庭

慶雲館の大きな魅力の一つは、本庭として広がる池泉回遊式庭園です。名匠7代目小川治兵衛（植治）が1912年に造園したこの庭園は、近代日本庭園の傑作として高い評価を得ており、2006年には国の名勝に指定されました。

起伏に富んだ地形を巧みに利用し、巨石を配した豪壮な景観は、琵琶湖と伊吹山を借景に取り入れた、壮大なスケールを感じさせます。深い涸池や築山、茶室など、一つ一つの要素が、見事なバランスで配置されています。小川治兵衛の長男である保太郎（白楊）による写真集が発行されるほど、完成当時から注目を集めていた庭園です。

歴史的建造物と貴重なコレクション

本館は、総檜造の2階建て書院風建築。明治時代の建築様式が美しく残されています。2階からは琵琶湖と伊吹山を一望でき、当時を偲ばせる貴重な調度品や美術品も展示されています。天皇皇后が使用した玉座や、明治時代に製作された梅の花をかたどった照明器具なども見どころです。

また、慶雲館には、浅見又蔵の顕彰のために建てられた慶雲館碑、豊臣秀吉による朱印地区域を示す石柱、日本最大級とされる芭蕉の句碑など、歴史的な史跡やモニュメントも数多く残されています。

多様な利用と一般公開

現在では、本館の一部や新館（梅の館）、茶室が一般に有料で貸し出され、茶会や展示会など様々な用途に使われています。バリアフリー化された新館は、アクセスの良さも魅力です。ただし、営利目的や宗教・政治目的の利用は制限されています。

毎年1月から3月にかけて開催される長浜盆梅展は、慶雲館を会場として、多くの観光客を集める人気イベントとなっています。ライトアップされた慶雲館と盆栽の美しいコラボレーションは、幻想的な雰囲気を醸し出します。

慶雲館周辺の魅力

慶雲館周辺には、長浜鉄道スクエア、長浜港、豊公園、長浜城跡（長浜城歴史博物館）、長浜文化芸術会館、成田美術館など、歴史的建造物や文化施設が点在しています。慶雲館を拠点に、長浜の豊かな歴史と文化に触れる旅を楽しむことができます。

慶雲館は、明治時代の歴史、近代日本庭園の粋、そして長浜の豊かな文化を凝縮した、貴重な場所です。訪れる人々を、時空を超えた旅へと誘います。

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