懐かしのポピュラー大全集

概要

『懐かしのポピュラー大全集』は、1970年12月にポリドールレコードから世に送り出された、日本のポピュラー音楽史において特異な輝きを放つ企画アルバムです。この作品は単なるベスト盤ではなく、当時の音楽界で活躍していた様々な分野のアーティストたちが一堂に会し、共演という形で往年の洋楽ヒット曲を新たな解釈で演奏・歌唱したオムニバス形式のLPレコード（全2枚組）として制作されました。企画の大きな特徴は、ジャズ、カントリー、そして広義のポピュラーといったジャンルを横断する形で、それぞれの分野のトップクラスの歌手、バンド、オーケストラ、そして編曲家が組み合わされている点にあります。

収録内容

このアルバムには、LPの両面にそれぞれ6曲ずつ、合計24曲が収録されています。選曲されたのは、どれも当時の日本のリスナーにとって馴染み深い、あるいは新たな魅力を再発見できるようなポピュラー音楽のスタンダードナンバーやヒット曲でした。「久しぶりね (It's Been a Long, Long Time)」、「モナ・リザ (Mona Lisa)」、「バイ・バイ・ブラックバード (Bye Bye Blackbird)」、「テネシー・ワルツ (Tennessee Waltz)」など、時代を超えて愛される名曲が多数含まれています。各楽曲は、単に既存の音源を集めたのではなく、このアルバムのために新たに録音されたものであり、それぞれの楽曲ごとに異なる歌手、伴奏を務めるオーケストラやバンド、そして編曲家が綿密に組み合わされているのが大きな特色です。この複雑で意欲的なプロデュース体制により、一曲一曲が独自の色彩を放つ仕上がりとなっています。

参加アーティスト

本作には、1970年代初頭の日本の音楽シーンを彩った、非常に豪華な顔ぶれが集結しました。ヴォーカリストとしては、旗照夫、笈田敏夫、武井義明、後藤芳子、菅原洋一、黒田美治、キング・トーンズ、高橋伸寿、シンガーズ・スリー、ティーヴ・釜萢（かまやつひろし）、マーサ三宅、西田佐知子、ダイアナ中森、藤田功といった、ジャズ、歌謡曲、グループサウンズ、カントリーなど、幅広いジャンルで人気を博した実力派歌手やコーラスグループが参加しています。彼らの個性豊かな歌声が、それぞれの楽曲に深みを与えています。

伴奏を務めるバンドやオーケストラもまた、当時の音楽界を牽引する存在ばかりです。森寿夫とブルー・コーツ、宮間利之とニューハード・オーケストラ、世良譲とオールスターズといった、日本のビッグバンドやジャズオーケストラのトップランナーたちが、ダイナミックかつ繊細な演奏を披露しています。さらに、ニュー・ストリング・オーケストラやポリドール・オーケストラといったストリングスやスタジオオーケストラが、楽曲の雰囲気を豊かに彩っています。カントリー分野からは原田実とワゴン・エースが参加し、ジャンルの多様性を一層際立たせています。

そして、楽曲の魅力を最大限に引き出す役割を担ったのが、実力派の編曲家たちです。半間巌一、前田憲男、大沢保郎、小野崎孝輔、野口武義、川上義彦といったアレンジャーが、それぞれの楽曲に施した編曲は、単なる伴奏に留まらず、歌手やバンドの個性を引き出しつつ、原曲とはまた異なる新たな魅力を創造しています。例えば、宮間利之とニューハード・オーケストラのパワフルな演奏を前田憲男がアレンジしたり、ニュー・ストリング・オーケストラによる小野崎孝輔の美しいストリングスアレンジなど、各パートのプロフェッショナルが見事に連携しています。

音楽的特徴と価値

『懐かしのポピュラー大全集』の音楽的な特徴は、参加アーティストそれぞれの専門性に基づいた多様なサウンドと、それが各楽曲でどのように融合しているかという点にあります。ビッグバンドジャズのグルーヴ、ストリングスアレンジによる豊かな響き、カントリーミュージック特有の温かみ、コーラスワークによるハーモニーなど、非常に幅広い音楽表現が詰まっています。また、各曲で異なる歌手と伴奏陣、編曲家が組み合わせられているため、同じ「ポピュラー」という括りの中でも、一曲ごとに全く異なる表情を楽しむことができます。

このアルバムは、単に懐かしいメロディを楽しむだけでなく、1970年代初頭の日本の音楽シーンがいかに多様で、いかに高い演奏・制作技術を持っていたかを示す貴重な資料としての価値も持っています。特定のアーティストの作品集ではなく、異なるジャンル、異なる才能が一つの企画のもとに集結し、質の高い音楽を作り上げようとした当時の音楽業界の熱意が感じられる作品と言えるでしょう。

まとめ

『懐かしのポピュラー大全集』は、日本のポピュラー音楽の黄金期とも言える時代に制作された、意欲的なオムニバスアルバムです。参加アーティストの豪華さ、楽曲の多様性、そしてそれぞれの持ち味を活かした共演は、半世紀以上を経た現在においても色褪せることなく、聴く者に豊かな音楽体験を提供してくれます。当時の音楽文化を知る上で、またシンプルに良質な音楽を求めているリスナーにとって、聴き継がれるべき作品の一つと言えるでしょう。

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