成功の甘き香り

成功の甘き香り

1957年にアメリカで製作された映画『成功の甘き香り』（Sweet Smell of Success）は、公開当時こそ批評的な評価や興行的な成功には恵まれませんでしたが、その後の時を経て、傑作としての地位を確立した異色の作品です。都市の片隅に潜む権力と野心のドラマを、冷徹な視点で描き出しています。

評価の変遷と影響力

本作が公開されたのは1957年ですが、当時の観客や批評家の反応は鈍いものでした。しかし、年月の経過とともに、その鋭い人間描写、スタイリッシュな映像表現、そして普遍的なテーマ性が再評価されるようになります。その評価の高まりは、1993年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録されたことからも明らかです。これは、文化的、歴史的、あるいは芸術的に重要な作品と認められ、未来永劫保存されるべき映画として選ばれる栄誉であり、本作がアメリカ映画史において重要な位置を占めることを証明しています。

さらに、本作に登場する極めて印象的なキャラクター、J.J. ハッセンカーは、その強烈な存在感と冷酷さから、アメリカ映画協会が選定した「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」において、見事、悪役部門の第35位にランクインしました。これは、彼がいかに観る者に強烈なインパクトを与え、映画史に残る悪役として認識されているかを示しています。

ストーリー：権力者の傲慢な干渉

物語の舞台は、ニューヨーク。主人公の一人、J.J. ハッセンカーは、この街で最も影響力を持つ劇評コラムニストです。彼の書く記事一つで、人のキャリアを左右し、劇場の興行を破滅させることさえ可能なほどの絶大な権力を握っています。しかし、その権力は彼の個人的な生活、特に妹のスーザンへの過干渉にまで及んでいます。

スーザンが、若く才能あるジャズ・ミュージシャンであるスティーヴ・ダラスと真剣に交際していることを知ったJ.J.は、その関係が気に入らず、妹の人生をコントロールしようと画策します。彼は、自身の成功を貪欲に追い求める若いプレス・エージェント、シドニー・ファルコを呼びつけ、スティーヴとスーザンの仲を引き裂くための非道な任務を強要します。シドニーは、J.J.の権力に取り入り、自らの地位を高めたいという野心から、その危険な企みに足を踏み入れていきます。

J.J.はシドニーに対し、スティーヴの評判を落とし、スーザンから遠ざけるための様々な策略を実行するよう命じます。それは、嘘や捏造を駆使した卑劣な手段であり、シドニーは自身の倫理観と、成功への渇望との間で激しい葛藤を強いられることになります。物語は、権力に取り憑かれたJ.J.の傲慢さと、それに翻弄されながらも自身の野心を満たそうとするシドニー、そして二人の策略によって引き裂かれそうになるスーザンとスティーヴの関係が織りなす、緊迫したドラマを展開します。

その他の展開

この映画のテーマやキャラクターの魅力は、後年の創作にも影響を与えました。本作を基にしたミュージカル『Sweet Smell of Success』が制作され、舞台上でもこの物語の持つ独特の雰囲気が再現されました。

また、日本においては、1967年2月11日にテレビ朝日系列の「土曜洋画劇場」にて初回放送され、日本語吹替版が制作されました。この吹替版は後にDVDにも収録されており、日本の映画ファンにも作品が届けられています。

『成功の甘き香り』は、単なる人間ドラマに留まらず、メディアの権力、成功への欲望、そして腐敗といった普遍的なテーマを鋭く問いかける作品として、今なお多くの観客に衝撃と感動を与え続けています。

もう一度検索