成就院 (鎌倉市)

成就院（じょうじゅいん）

神奈川県鎌倉市極楽寺に位置する成就院は、真言宗大覚寺派に属する寺院です。山号を普明山、寺号を法立寺と称し、不動明王を本尊としています。かつては、四季折々の美しい花、特に梅雨時に咲き誇るアジサイの名所として広く知られていました。

歴史

成就院が立つのは、古都鎌倉へと続く主要な入口の一つであり、鎌倉七口にも数えられる極楽寺坂切通の途上です。この地には古くから伝わる由緒があります。真言宗の開祖である弘法大師・空海が、諸国巡礼の途上で立ち寄り、百日間にも及ぶ虚空蔵求聞持法という厳しい修行を行った場所として伝えられています。

寺の歴史は鎌倉時代に始まります。承久元年（1219年、ただし承久3年とする説もあります）に、鎌倉幕府の三代執権であった北条泰時によって建立されました。泰時はこの寺を、自身の氏寺として、そして北条一族のさらなる隆盛と安寧を祈願する場としたと伝えられています。

しかし、中世の動乱期には幾度かの困難に見舞われます。特に元弘3年（1333年）には、新田義貞が率いる鎌倉攻めの激しい戦火によって、惜しくも伽藍が焼失してしまいました。現在の本堂をはじめとする伽藍は、江戸時代に入ってから再建されたものです。

境内と見どころ

境内には、様々な見どころがあります。真言宗の開祖である弘法大師・空海の像が安置されており、その偉大な功績を偲ぶことができます。また、聖徳太子の1300年遠忌を記念して建てられた、特徴的な八角形の小堂も訪れる人々の目を引きます。

成就院には、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての伝説的な僧侶である文覚上人の荒行像が伝わっています（境内に置かれているのはその模刻です）。この像は、明治時代後半から大正時代にかけて活躍した日本の近代彫刻家、荻原碌山（おぎわら ろくざん）に大きな感銘を与えたことで知られています。碌山はこの像からインスピレーションを得て、自身の代表作の一つである彫刻「文覚」を制作しました。

かつて成就院のシンボルとも言える存在だったのが、参道に植えられたアジサイでした。特に、仏教の根本経典の一つである般若心経の文字数と同じ262株が植えられていた時期があり、その美しい景観は「アジサイの寺」として全国的に有名になり、多くの参拝者や観光客を魅了しました。現在ではアジサイの株数は減らされ、その代わりに秋に可憐な花を咲かせるハギが植えられています。

境外仏堂と札所

成就院は、自身が管理する境外仏堂を持っています。寺の東方、鎌倉市坂ノ下の地域に位置するこの堂は、鎌倉十井の一つとして名高い「星ノ井」（星月夜ノ井とも称される名水）のすぐそばにあります。この虚空蔵堂（正式名称は明鏡山圓滿院星井寺、通称せいせんじ）は、成就院の管理下にあり、本尊として虚空蔵菩薩を祀っています。

また、成就院は複数の由緒ある霊場の札所となっています。新四国東国八十八箇所の第83番札所であり、ここでは本尊の不動明王が祀られています。さらに、鎌倉三十三観音霊場の第21番札所として聖観世音菩薩を、鎌倉十三仏霊場の第13番札所として虚空蔵菩薩を祀っており、それぞれの霊場巡拝の際には多くの方が訪れます。

所在地・交通・拝観

成就院は神奈川県鎌倉市極楽寺1丁目1番5号に位置しています。最も便利な公共交通機関は江ノ島電鉄で、極楽寺駅からは徒歩約5分で到着することができます。

拝観時間は8:00から16:30までとなっており、この時間帯に境内を自由に散策することができます（堂内の特別拝観などは別途ご確認ください）。

歴史に彩られた古刹でありながら、四季折々の自然の美しさを感じられる成就院は、鎌倉散策において立ち寄る価値のある場所と言えるでしょう。

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