戦え!軍人くん

『戦え!軍人くん』（たたかえぐんじんくん）は、漫画家・吉田戦車によるナンセンスギャグ作品です。1989年頃、スコラ社発行の漫画雑誌『コミックバーガー』にて連載されました。単行本は全2巻が刊行されており、本作の他に短編作品なども併せて収録されています。

作品概要と世界観

物語は、架空の軍隊に所属する若い兵士、吉田くんを主人公に展開します。当初は火星での異星人との戦いが描かれますが、その後は地球上の一般的な戦場へと舞台を移し、吉田くんと彼を取り巻く個性豊かな仲間たちが織りなす軍隊生活が描かれます。しかし、本作で描かれる軍隊や戦場の描写は、現実のそれとは大きく異なります。むしろ、戦争をテーマにしたSF映画やアニメーションに登場するような、多分にデフォルメされた、非現実的な世界観がモチーフとなっています。戦闘シーンもリアリティに欠けるため、「日本の高校を舞台にした学園ドラマ」の舞台だけを戦場に置き換えたかのような印象すら与えます。そのため、一般的に「戦争漫画」として分類される作品群とは一線を画しています。

ギャグのスタイル

本作の根幹を成すのは、吉田戦車作品ならではのナンセンスかつ不条理なギャグです。これは、後の作者の代表作となる『伝染るんです。』にも通じる要素と言えます。ただし、『伝染るんです。』が比較的牧歌的な雰囲気を持つのに対し、『戦え!軍人くん』では「死」を題材にしたギャグが多く見られ、よりブラックユーモアの色合いが濃い点が特徴です。突拍子もない展開や常識が通用しないキャラクターたちの言動によって、独特の笑いが生み出されています。

物語の展開

主人公の吉田くんが所属する部隊は、突如として火星人と交戦状態に突入します。吉田くんは、軍曹、変な奴、主婦兵士の石井照美といった仲間たちと共に、宇宙船「窒息号」で火星へと出撃することになります。慣れない火星の戦場での混乱や、謎の花売り娘による妨害などを乗り越え、彼らは多数の火星人を撃退します。その戦闘の壮絶さ？は、一度倒された火星人が生き返り、「良い死だった」と感謝するほどであったと描かれます。火星からの帰還後も、吉田くんたちの戦いの日々は終わりません。マッドサイエンティスト的な司令官や、躾に厳しい双子の将軍なども加わり、吉田くんの奇妙な戦場生活は続いていきます。

主な登場人物

物語の中心となるのは、主人公の吉田くんです。アイドルやミニスカートの女性に憧れたり、性的な妄想にふけったりする点はごく普通の若者ですが、性格はやや大雑把な一面も持っています。絵が得意という設定もあります。

彼の周りには個性的な仲間たちが集まります。石井照美は、一人で子供を育てながら兵役を務める主婦兵士で、常に家に残した子供のことを案じています。変な奴は、巨大な風船のような頭部を持つ正体不明の人物で、後に意外な形で吉田くんと再会します。軍曹は、登山家のような風貌で、登場人物の中では比較的常識的に見える人物ですが、楽天的な一面も持ち合わせています。

その他にも、男性同性愛の傾向がある兵士の田島、戦場で花を売るトラブルメーカーの花売り娘、奇妙な夢を持つ死神中佐、発明家の司令官、躾にうるさい双子の将軍さとる＆さとしなどが登場し、物語に彩りを添えます。

また、司令官の発明品として、いじめてくんやときめき少女爆弾「やさしくしてね」ちゃんといった、名前と性能が強烈なインパクトを持つロボット爆弾も登場します。これらのロボット爆弾を巡るエピソードも、本作のブラックユーモアを象徴しています。

関連作品と作者の視点

本作からは、『戦え!学生さん』と『いじめてくん』という2つのスピンオフ作品が生まれました。特に『いじめてくん』は、同名のロボット爆弾を主人公にした作品として展開しました。

作者の吉田戦車は、本作の単行本のあとがきにおいて、自身のペンネームに「戦車」と入っていることや、このようなタイトルの漫画を描いたことで、軍国主義者だと誤解されてしまうことへの苦悩を率直に語っています。作中でも、兵器の描写が面倒だと述べるなど、軍事的なテーマそのものへの関心や好意が薄いことを示唆しています。実際、本作の連載を打ち切った後、舞台を学校に移した『戦え!学生さん』の連載を開始しており、それ以降、吉田戦車の主要な作品に軍人や軍隊が登場することはほとんどなくなりました。本作は、ナンセンスギャグという作者のスタイルと、扱いにくい「戦争」というテーマが交錯した、初期における実験的な作品とも言えるでしょう。

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