戯夢人生

映画『戯夢人生』について

『戯夢人生』は、1993年に公開された台湾映画で、侯孝賢（ホウ・シャオシェン）監督による作品です。この映画は、台湾現代史を描いた3部作の第1部にあたります。前作『悲情城市』の続編であり、次回作『好男好女』へとつながる物語です。本作は、1895年の日本統治下から1945年の日本敗戦後に至る時代を背景にしています。特に、台湾の伝統芸能である人形芝居・布袋戯の名手、李天祿（リー・ティエンルー）の半生を描き、彼が語る回想に基づいています。

李天祿の半生

物語は、1909年に李天祿が出生した後の台湾の厳しい社会状況を映し出します。父を許夢冬（蔡振南）という人形師でもある父に持ちながら、李天祿は運命に翻弄されます。父には占い師のすすめで、なぜか実の両親を「おじさん」「おばさん」と呼ばせられることになります。彼は祖父の家で育ちながら、日本の植民地政策の下での生活を余儀なくされました。こうした困難な状況の中でも、李天祿は布袋戯を学び、ついには若くして自ら人形劇団を設立します。

戦争と布袋戯

1937年、盧溝橋事件を契機に布袋戯は禁じられ、李は役者としての生活を送りながら、辛い日々を耐え抜いていきます。更に、皇民化教育が進む中で、反英米政策をテーマにした人形劇の役者としても活動し、彼の表現は制限される時代が続きます。米軍による空襲が激化し、李は疎開を余儀なくされるものの、終戦の日を迎えることになります。

文化とアイデンティティ

『戯夢人生』は、単に李天祿の物語を話すだけではありません。台湾の伝統文化がどのように戦争や植民地支配といった歴史の影響を受け、時には消えていこうとする様子を、観客に強く印象づける作品です。李の成長や苦悩を通じて、台湾の人々がその文化とアイデンティティをどのように保ち、発展させていったのかが描かれています。

映画の評価

本作は、1993年の第46回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、その名作としての地位を確立しました。日本の著名な映画監督、黒澤明もこの映画に賛辞を送り、彼自身の作品とは異なる彼の表現のすべてが映画として成立している点を評価しています。これは、侯孝賢の作品が持つ深い人間理解と独自の視点が、そのまま映画芸術として具現化された結果だと言えるでしょう。

キャスト

映画には李天祿自身を演じる役者をはじめ、若き日の李を演じる多くの俳優が登場します。李天祿の少年期を演じたのは程茎中（チョン・クイチョン）、さらにその子供時代を演じた卓挙偉（ジュオ・ジューウェイ）の存在も、ストーリーに厚みを与えています。また、彼の家族や周囲の人々もそれぞれの役割を演じており、彼らの人生が李天祿を通じて交差していく様子が描かれています。

『戯夢人生』は台湾映画の金字塔とも言える作品であり、その深いテーマは時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。

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