戸ノ下達也

戸ノ下達也氏は、1963年に東京都で生まれた、日本の会社員であり、同時に洋楽文化史研究会の代表幹事を務める人物です。立命館大学産業社会学部を卒業後、近代日本音楽史の研究に深く携わっています。

戸ノ下氏の研究は、単に音楽史を記述するだけでなく、音楽が社会や政治とどのように関わってきたかを考察する点に特徴があります。特に、戦時下の音楽統制や大衆歌謡の変遷、合唱史における国家と音楽の関係など、多岐にわたるテーマを扱っています。これらの研究を通して、音楽が単なる芸術作品としてだけでなく、社会の動きや人々の感情を映し出す鏡としての側面を明らかにしています。

2018年には、長年の音楽文化研究における貢献が認められ、第5回JASRAC音楽文化賞を受賞しました。これは、氏の研究が学術的な価値だけでなく、社会的な影響力も持つことを示すものです。

著書としては、単著で『音楽を動員せよ　統制と娯楽の十五年戦争』、『「国民歌」を唱和した時代　昭和の大衆歌謡』、『戦時下日本の娯楽政策　文化・芸術の動員を問う』があります。これらの著書では、戦時下の音楽がどのように政治利用され、大衆の思想形成に影響を与えたか、また、戦後の大衆歌謡がどのように変化していったのかを詳細に分析しています。

共著としては、『クラシック音楽の政治学』があり、クラシック音楽が政治的な文脈でどのように扱われてきたかを探求しています。共編著としては、『総力戦と音楽文化　音と声の戦争』や『日本の合唱史』があり、これらは、戦争と音楽、合唱という文化がどのように結びついていたかを考察しています。

さらに、刊行史料として『戦時下音楽界の再編統合　清瀬保二メモにみる楽壇新体制促進同盟から日本音楽文化協会へ』や『音楽文化新聞』全三巻・別巻をまとめており、貴重な一次資料を後世に伝える役割も担っています。これらの史料は、当時の音楽界の動きを知る上で非常に重要なものです。

戸ノ下氏の研究は、音楽史という枠にとどまらず、文化史、社会史、政治史など、様々な分野の研究者にとっても重要な示唆を与えています。音楽を通じて、近代日本の社会構造や人々の意識を深く理解する上で、氏の著作は欠かせないものと言えるでしょう。

また、戸ノ下氏は、自身の研究活動と並行して、「戸ノ下達也の「近代ニッポン音楽雑記」」というブログや、洋楽文化史研究会を通じて、一般の人々にも音楽文化への関心を広める活動を積極的に行っています。これらの活動は、音楽研究の専門家だけでなく、広く一般の人々にも音楽文化の面白さを伝える上で貢献しています。

戸ノ下達也氏の活動は、近代日本音楽史研究における重要な貢献であると同時に、音楽文化が持つ多面的な価値を社会に発信する上で、非常に重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

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