手塚治虫漫画全集

手塚治虫漫画全集：漫画史に刻まれた壮大なプロジェクト

『手塚治虫漫画全集』は、言わずと知れた、日本を代表する漫画家・手塚治虫の漫画作品を集成した全集です。講談社よりB6判、白黒で全400巻という圧倒的なボリュームで刊行され、日本の漫画史に大きな足跡を残しました。

刊行の歴史と多様な展開

この大プロジェクトは、『週刊少年マガジン』の編集長、宮原照夫氏の発案で始まりました。当初は文庫版での刊行が検討されていましたが、手塚治虫自身の希望により、より読み応えのあるB6判での刊行が実現しました。1977年6月から1984年10月にかけて、毎月4冊ずつ、全300巻が3期にわたって刊行されました。

その後、手塚治虫の死後も刊行は続き、1993年から1997年にかけて第4期100巻が刊行され、全400巻がついに完結しました。単なる漫画作品だけでなく、エッセイや対談集などの別巻18冊も含まれており、手塚治虫の世界観を多角的に理解できる内容となっています。

デジタル時代への対応も早く、2001年には全400巻をデジタルデータ化したDVD-ROM版『手塚治虫漫画大全集』が限定販売されました。さらに、2008年にはオンライン閲覧サービス「手塚治虫マガジン倶楽部」、2009年にはeBookJapanでの電子書籍版販売が開始されるなど、時代に合わせて様々な展開を見せています。 2011年には、英語版サービス「Osamu Tezuka Magazine Club」も開始されました。

2009年には、手塚治虫生誕80周年を記念して、全200巻の文庫版『手塚治虫文庫全集』が刊行されました。これは『漫画全集』を再編したものであり、『漫画全集』未収録作品も含まれている点が大きな特徴です。

黒人描写問題と社会との対話

『手塚治虫漫画全集』は、その刊行過程において、社会問題にも直面しました。「黒人差別をなくす会」からの指摘を受け、黒人描写に関する問題が浮上し、1990年には全巻の出荷停止という事態に発展しました。他の出版社から刊行されている手塚作品についても、黒人描写のあるものは一時的に出荷停止となりました。絶版の危機に瀕しましたが、巻末への断り文掲載などを通じて理解を求めた結果、1992年に再出荷、そして1993年から第4期の刊行が再開されました。この出来事は、漫画作品における社会問題への対応、そして表現の自由と社会的な責任とのバランスについて、多くの示唆を与えてくれる出来事でした。

手塚治虫漫画全集と他の漫画全集

『手塚治虫漫画全集』は、他の漫画家の全集刊行にも影響を与えたと言われています。例えば、1984年に刊行が始まった藤子不二雄の『藤子不二雄ランド』、2009年の『藤子・F・不二雄大全集』、2014年の『藤子不二雄Ⓐデジタルセレクション』、そして2006年の石ノ森章太郎の『石ノ森章太郎萬画大全集』など、多くの漫画家が自身の作品を集成した全集を刊行しています。これらの全集は、それぞれ独自の規模と特徴を持っており、日本の漫画文化の豊かさを示すものです。また、手塚漫画のパロディをメインとした田中圭一の短編集『田中圭一最低漫画全集 神罰』は、『手塚治虫漫画全集』の装丁を模倣している点が興味深いものです。

まとめ

『手塚治虫漫画全集』は、単なる漫画作品集にとどまらず、社会問題との関わりや、デジタル技術の活用、そして他の漫画全集との比較を通して、日本の漫画史における重要な位置を占める作品です。その刊行の歴史、多様な展開、そして社会的な影響は、現代においても私たちに多くのことを考えさせてくれます。手塚治虫という偉大な漫画家の功績が、この全集を通して今なお広く伝えられていることは、大きな意義を持つと言えるでしょう。

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