手紙を読む女 (メツー)

ハブリエル・メツーの傑作『手紙を読む女』

ハブリエル・メツーによって1665年から1667年頃に描かれた油彩画『手紙を読む女』は、オランダ黄金時代の風俗画を代表する作品の一つです。この絵画は、手紙を読む女性と、その傍らに立つ召使の姿を、室内の情景とともに繊細に捉えています。

作品の構成と象徴

絵の中央に描かれるのは、窓辺に座って手紙を読む女性です。彼女は、オコジョの毛皮で飾られた黄色い上着と、金糸で縁取られたピンクの絹のスカートという豪華な衣装を身に着けています。膝の上には赤と青の刺繍が施された枕があり、その傍らには編み物籠が置かれています。これらの小物は、彼女が手紙を読むために、普段の手仕事を中断していることを示唆しています。

女性は、窓から差し込む光に向かって手紙を読んでおり、同時に召使から手紙の内容を見られないようにしています。手紙の内容は明示されていませんが、当時の視覚的要素から、恋文であることが推測されます。例えば、画面左下に描かれたスパニエル犬は忠実さを、バケツに描かれたクピードの矢と召使の古い靴は愛と帰還への希望を象徴しています。

背景には、黒檀の額縁で飾られた海景画が描かれています。この海景画は、荒れ狂う波を描いており、「愛は荒れる海のようだ」という当時の比喩を表しています。召使は、この海景画を鑑賞者に見せることで、彼女の女主人が危険な恋愛に陥る可能性を示唆しているのです。さらに、召使が手に持つ手紙には「メツー氏、アムステルダムへ、郵送」と書かれており、これはメツー自身の署名として、ユーモラスな演出となっています。

対作品『手紙を書く男』

この作品は、『手紙を書く男』と対になっており、両作品は長きにわたり対作品として扱われてきました。『手紙を書く男』では、若い男性が手紙を書いています。メツーは、ヘラルト・テル・ボルフの作品から対作品の着想を得たとされていますが、フェルメールの影響も指摘されています。特に、女性の上着の描写は、当初赤色であったものが、フェルメールの作品に見られるような、斑点のある白い毛皮で縁取られた黄色い上着に変更されています。

作品の来歴

『手紙を読む女』と『手紙を書く男』は、複数の収集家の手を経て、最終的にアイルランド国立美術館に収蔵されました。17世紀から20世紀にかけて、様々な所有者の間で売買され、1974年と1976年には盗難にも遭いましたが、最終的には回収され、1993年にアイルランド国立美術館に寄贈されました。

作品の評価

これらの対作品は、一般的にメツーの最高傑作とされています。美術評論家からも高い評価を受けており、その精緻な描写と象徴的な表現は、見る者を魅了します。ニューヨーク・タイムズは、「驚くべきもの」、NPRは「素晴らしい技術と精緻に描かれた細部を持つ、見事に描かれた作品」と評しています。

まとめ

『手紙を読む女』は、単なる風俗画にとどまらず、愛と危険、そして人の心の機微を描いた傑作です。メツーの卓越した画力と、細部にまでこだわった表現は、現代の私たちにも深い感動を与えてくれます。対作品である『手紙を書く男』と共に、この作品はオランダ黄金時代の美術を代表する重要な作品として、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

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